「経営の安全性は、規模ではない」
1997年4月、バブル崩壊の打撃が深まるなか、中堅生命保険会社の日産生命が債務超過となり、破綻した。その後、準大手の証券会社、都市銀行、長期信用銀行へと、破綻は拡がる。「金融危機」の襲来だ。
「次は、あの会社か?」。金融、証券、保険を問わず噂が飛び交い、活字にまでなる。ひとたび危機説を流されれば、預金流出や投資の引き上げ、保険の解約が、巻き起こる。業界中堅ながら資産内容が優良だった富国生命であっても、そんな風評に襲われれば、どうなるか。かつてない危機感が、社内に広がる。
運用の責任者である総合企画室長として、風評防止策を考え抜く。まず、資産運用で「安心重視」の姿勢を鮮明にした。さらに、その内容を積極的に開示する。世間は「金融機関などは、不良債権を隠している」との疑念を抱いていた。そんななかで、いくら正直に公表しても、かえって風評を加速してしまう恐れもある。だから、銀行や生保には、積極開示に慎重論が多かった。
だが、前回(http://president.jp/articles/-/11747)触れたように、若いときから小売業など消費者と直結した業界を調べ、その長所を学んだ。あるいは、自社の短所を見出してきた。そこで得た答えの1つが、「安心」がすべてに優先し、商品などに関する「透明性」が生命線、という点だ。素直に、その答えを活かす。
ただ、もっと「安心」の材料を、積み重ねたい。そこで、経営戦略に「格付け」を導入することを提案する。97年秋、日米の格付け会社から、高い格付けを得た。それまで、生保業界は資本調達に縁遠いことから、社債発行などに際して重視される格付けには、関心が薄かった。格付け会社のほうが、公表した財務諸表などから評価する「勝手格付け」はあったが、自ら格付けを取りにいったのは、業界では早かった。
これも、常々、他業界から学んでいた成果の1つ。「生保という業態は特別、よそは参考にならない」などと思い込まず、世の中の企業にあるいい点を、自社の強化に活かす。