韓国市場向けに輸出のチャンスが生まれる理由
ここまで述べてきた(1)石油のノーブルユースの徹底と(2)ガス・電力事業への本格参入は、日本国内の市場を対象にした石油業界の成長戦略である。これらのほかにも、海外市場、とくに石油製品の需要が急伸するアジア市場を対象にした成長戦略が存在する。それが、(3)輸出の拡大および(4)海外直接投資の推進という、第3、第4の成長戦略である。
この第3、第4の成長戦略を深く掘り下げた報告書として注目されるのが、今年3月、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部の委託を受けて日本エネルギー経済研究所がまとめた「我が国石油精製業の海外展開等に関する調査・報告書」(以下では、適宜「海外精製調査報告書」と呼ぶ)である。この報告書の作成にあたっては有識者委員会(通称は「海外精製委員会」)が設置されたが、筆者(橘川)は同委員会の委員長をつとめさせていただいた。
海外精製調査報告書は、図2を示しつつ、アジア地域では石油製品の需要が着実に増大する一方で、石油製品の自給率が顕著に低下することを指摘する。そのうえで、日本の石油業界にとっての新たな成長戦略が、アジア市場を対象にした輸出の拡大(前記の(3))と海外直接投資の推進(前記の(4))にあることを力説するのである。
海外精製調査報告書は、シンガポール・インドネシア・バングラデシュ・ミャンマー・カンボジアでの現地調査をふまえて、日本の石油業界には、アジア市場向け輸出を拡大するチャンスがあることを指摘する。アジア市場向け石油製品輸出に関しては、日本企業より韓国企業が先行しているが、興味深いのは、そのお膝元の韓国で、最近、軽油の輸入が急増している事実である(図3参照)。
韓国企業は、アジア市場向けに石油製品を輸出するにあたって、低価格を最大の武器にしている。その結果、収益面でマイナスが生じるが、それをカバーするために、国内価格を割高に設定する。すると、日本企業にとって、韓国市場向けに石油製品を輸出するチャンスが生まれる。このような連関が、最近、とくに軽油に関して目立っているのだ。