画期的なヒット商品を世に送り続ける同社の組織は一体どのようになっているのだろうか。マーケティングコミュニケーション室リーダーの池川志帆氏によると、新規ブランド開発の際には、「生産部門、品質を管理する部門、商品企画の部門、マーケティングの部門、ECを担当する部門などが、それぞれ責任者を1人ずつぐらい参加させてプロジェクトチームをつくります」とのことである。そして、「(池川氏のような)プロジェクトリーダーが決まると、すごく不思議なことは、商品が生まれる最初の段階から最終的にどうやって販売するかという、最終段階までロングスパンでチームの進行管理を(彼女が)行うようになります」と同室広報リーダーの中島英摩氏は説明する。

同社のプロジェクト組織は一種のブランド・マネジャー制と言い換えることができよう。1人の管理者がブランドの開発から市場化までの全プロセスに目を配り、マネジメントしていくのである。この方式は、顧客志向の視点でシステム全体を管理でき、非常にマーケッタビリティを高めることができる。加えて、この方式ではリスクの低減も可能になる。JINS PCのように売上高が急成長する商品の場合、「生産部門が工場をどう稼働させるのか。流通部門がどう店舗に商品を配布すればよいのか。在庫をどう管理すればよいのかといった課題に対し、適宜方式を変えていかなければならないのですが、それが(プロジェクト)チームだとすごくわかりやすくなります」と池川氏は語る。つまり、各部門の代表者が集うプロジェクトチームであるがゆえに、リーダーはシステム全体を連続的な有機体として俯瞰することができ、それの管理、運営の柔軟性を格段に高めることができるのだ。

また、同社の組織の柔軟性を象徴するものとして、「フリーアドレス制」がある。驚くべきことに、同社では社員個人のデスクが存在しない。つまり社員は出社後、どこに座っても構わないのだ。もちろん、パーティションもなく、置かれているデスクも、オフィスによくある引き出し付きの個別デスクではなく、ひたすら長いテーブルが続いているだけなのだという。これは多様な部署の人と自由な打ち合わせを可能にする仕掛けである。もちろん、プロジェクトの会議は定例的に実施するのだが、それはしっかりとしたアジェンダを用意し、各自が意見を固めてから臨む公式の場という位置づけだ。フリーアドレス制は、その公式の会議以前あるいは以後に、多様な部署の人と忌憚なく意見交換できる工夫であり、創発性を高めるインフラといえる。