サバンナでライオンや猛獣に遭遇したら背中を向けて逃げだしてはいけない。以前にそう、狩りをする人から聞いたことがあります。どんなに怖くても背中を見せた瞬間、その人の命はありません。ではどうするかというと、真正面からライオンの両目をグーッと睨(にら)みつけるのだそうです。微動だにせず。
危機に際しても同じことです。逃げだしたい気持ちは皆同じ。でも逃げても何も変わりません。背中を見せて机の裏に隠れ「代わりに副社長を出しておけ」では何の解決策にもならない。必ず記者は問います。「社長はどこにいるんだ。社長を出せ!」と。そのときに「いや、いまちょっと病気をしておりまして」では、普通は通用しないんです。少なくともソフトバンクの社長になったら、自宅までマスコミが来て追及されると思え。そういってあります。逃げたら最後です。
もちろん相手はライオンではありません。睨みつけろ、といっているわけでもない。ただ、逃げても何にもならない、ならばせめて自らマイクに向かい、純粋な心で本心から詫びること、せめて被害をミニマイズすることに全力を注いでほしいということです。
逃げないことは、勇気がいります。ボコボコにもされます。でもそこで「逃げようかなぁ」と少しでも思う人は、少なくとも私の後継者になってもらったら困ります。それは事業家として向いていない。リーダーとして向いていないということですから。
(※本稿は、2011年9月2日に開催された「ソフトバンクアカデミア危機克服の極意」の講演要旨です。)
1957年、佐賀県鳥栖市生まれ。80年、ソフトバンクの前身「ユニソン・ワールド」設立。ソフトバンクの売上高は3兆円を突破し、日本を代表する企業に。フォーブス世界長者番付の2011年版で日本人1位(81億ドル)。プロ野球日本シリーズで優勝した福岡ソフトバンクホークスオーナー。