企業にコーポレートガバナンス(企業統治)機能の強化を迫る圧力が一段と強まってきた。とりわけ、経営に外部の視点を取り込む社外取締役の存在が再び重視され、6月末で終えた3月期決算企業の株主総会で初めて社外取締役を選任する事例も相次いだ。政府も成長戦略に社外取締役設置を見据えた会社法改正案を秋の国会に提出する方針を織り込み、企業統治が大きな転機を迎えている。
トヨタ自動車は14日開催の株主総会に、同社初の社外取締役として宇野郁夫・日本生命保険相談役ら三人の選任議案を提出、承認された。トヨタは独自の役員制度で日本型経営を貫いてきた。ただ、世界企業として多様な価値観を経営に取り入れる観点から、「より開かれた会社と周りから思われるように」(豊田章男社長)、社外取締役を起用。ファナックも初の社外取締役を置いたほか、京セラ、住友商事など初起用組が相次いだ。
背景には、「アベノミクス」へのデフレ脱却期待で投資家の視点が企業価値を高める経営に向かっているのに加え、金融危機から息を吹き返した米系投資ファンドなど「物言う株主」の存在が増したことも大きい。実際、西武ホールディングスは、筆頭株主の米ファンド、サーベラスに株式公開買い付け(TOB)を仕掛けられ、企業統治の不備を糾された。日本企業でいち早く取締役会改革に手を染め、企業統治の先進企業ともてはやされたソニーも、米ファンドのサード・ポイントに映画・音楽事業の分離・新規上場を提案され、13人中10人を社外取締役で占める取締役会が判断を迫られる。
さらに、海外議決権助言会社が社外取締役を置かない企業の経営トップの取締役選任議案に反対を勧めた影響もある。その洗礼を受けた代表例はキヤノンだ。3月末の株主総会で、昨年3月末に社長復帰した御手洗冨士夫会長への賛成率はほぼ7割と異例の低さだった。直近でも、三井造船との経営統合が消えた川崎重工業は、社外からの視点が入っていれば客観性のある判断を下せたとの指摘もある。
社外取締役起用が必ずしも企業価値向上につながるとは限らない。ただ、経営の透明度で、国際的に極めて設置率が低い日本企業への不信感は拭えず、今後、一段と風圧が強まるのは間違いない。