※本稿は、堂本かおる『絵本戦争 禁書されるアメリカの未来』(太田出版)の一部を再編集したものです。
禁書運動のきっかけは「1619プロジェクト」
アメリカの黒人史とは、奴隷制から現代まで続く人種差別の歴史でもある。
1492年、クリストファー・コロンブスはスペインの援助のもと行った航海で“新大陸”に到達する。このときコロンブスが到達したのは、実のところ北米/南米いずれの大陸でもなく、中米に位置するカリブ海諸島だった。その後、コロンブスはカリブ海の複数の島を植民地化し、先住民を奴隷化、島によっては虐殺して全滅させた。結果、島々でのサトウキビ畑などで労働力が不足し、16世紀初頭になるとアフリカから黒人を奴隷として使役するために拉致するようになった。つまりアフリカ黒人の奴隷制は、北米大陸よりも先にカリブ海諸島で始まっていた。
北米に奴隷としてのアフリカ人がはじめて連行されたのは、1619年のことだ。ニューヨーク・タイムズのジャーナリストであったニコール・ハナ・ジョーンズは、この1619年こそアメリカ黒人史の始まりであると考え、エッセイや写真などアメリカにおける黒人の歴史や現状を表すさまざまなジャーナリズムの集合体を「1619プロジェクト」と名付け、雑誌『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』に発表した(※1)。北米大陸へのアフリカ人到達から400年目にあたる2019年8月のことだった。
※1 https://www.nytimes.com/interactive/2019/08/14/magazine/1619-america-slavery.html(2024年12月20日最終閲覧)
黒人史に関する書籍が学校から閉め出されて…
この力強いメッセージから始まる同プロジェクトは大きな反響を呼び、2021年に『1619プロジェクト 新たな起源の物語』というタイトルで書籍化され、ベストセラーとなった。
カリフォルニア州では「多様で困難な歴史の複雑さを否定も無視もすることなく深く掘り下げる」ために「1619プロジェクト」を高校のカリキュラムに取り入れた。メディアNPOのピューリッツァー・センター(※2)は「1619プロジェクト」を学校教材として使うためのガイダンスとしてウェブサイトを公開し、全米で3500以上の学校がアクセスしている(※3)。
この動きに対抗して、政治家も含む保守派の白人たちは、黒人史をテーマとする書籍や児童書を学校から締め出す運動を開始した。現在まで続く禁書運動の始まりだ。おもな理由は「奴隷史を習ったうちの子が『私は悪い人間なの?』と罪悪感を抱くことになり、かわいそう」「人種間の分断を生む」だった。2020年以降、複数の州で「1619プロジェクト」を学校のカリキュラムとすることを禁じる法案が成立した。
※2 アメリカを中心にジャーナリストをサポートするNPO団体。その年に優れた業績を残した新聞や文学作品などに授与するピューリッツァー賞とは無関係。
※3 https://1619education.org/ (2024年12月20日最終閲覧)


