NHKの朝ドラ「あんぱん」は、最終回に向けて折り返しを過ぎた。同作はアンパンマンの作者・やなせたかしさんと妻の暢さんをモデルにしており、世界観を彷彿させるセリフも登場する。どのようなこだわりが込められているのか。NHKチーフ・プロデューサーの倉崎憲さんに、朝ドラを愛するコラムニストの矢部万紀子さんが聞いた――。(後編/全2回)

のぶは“ずっと走り続ける人”

折り返しを過ぎたNHK連続テレビ小説「あんぱん」(毎週月曜~土曜午前8時~8時15分、NHK総合他)。ヒロイン・のぶ(今田美桜)と未来の夫・嵩(北村匠海)が問い続けることの一つが「何のために生まれ、何をして生きるか」だ。「アンパンマンのマーチ」の一節と重なるこの言葉にまつわるエピソードや思いを、制作統括で、チーフプロデューサー(CP)の倉崎憲さんにインタビューした。前編に続き、後編は「走るのぶ」の話から。
チーフ・プロデューサー(CP)の倉崎憲さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
チーフ・プロデューサー(CP)の倉崎憲さん

朝ドラの場合、メインビジュアルにキャッチコピーをつけることもありますが、今作はつけていません。ですが、「あんぱん」につけるなら、<走れ。絶望や不安や退屈に、追いつかれない速さで>だと思っています。あくまで私の中では、ですが。

退屈は私自身に重ねている部分が大きいですが、絶望や不安も退屈も、走れてないんだと思うんです。だからしんどい気持ちになるし、人の言葉が刺さってくる。今の時代で言うと、ネットの言葉がそうです。自分が走れてないから、入ってきてしまう。

のぶはずっと走る人です。走り続けながら考える、その姿勢や言動で嵩を引っ張っていきます。でも女子師範学校に入り、戦争の影が濃くなるにつれ走れなくなります。物理的にもそうですが、気持ちの部分が大きかったと思います。

「はちきんおのぶ」は史実

のぶは教師になり、愛国教育をします。そして戦争が終わり、教師を辞めた後、のぶの最初の夫・次郎(中島歩)が亡くなります。次郎はのぶへの遺言を残しましたよね。

――それは次郎が病院でつけていた日記帳に、速記で書かれていた。義母が置いていった速記の教則本を見ながら、のぶは一文字ずつ読み解いていく。夜から読み始め、朝が来る頃に読み終える。「のぶへ 自分の目で見極め 自分の足で立ち 全力で走れ 絶望に追ひつかれない 速さで」とあった。

連続テレビ小説「あんぱん」より
写真提供=NHK

随分前、台本の打ち合わせの席で、「キャッチコピーつけるならこういうことかなって私は思っています」と中園さんに話したことがありました。だから、ああ、覚えてくれていたんだとうれしかったですね。

のぶの足の速さは、史実に沿ったものです。暢さんは一般の方ですから、人物像がわかる資料は限りなく少なく、やなせさんの自伝などから読み解いていくしかありません。その中でもわかったのが、勝ち気で快活な女性だったということ、そして足が速かったということでした。「はちきんおのぶ」と呼ばれていたし、「韋駄天おのぶ」とも呼ばれていました。