円安は日本経済にとって毒なのか、薬なのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「いま日本に与えられている使命は日本国内にサプライチェーンを早急に“回帰”させることだ。円安が維持されれば、日本の製造業にとっては追い風になる」という――。

※本稿は、エミン・ユルマズ『高金利、高インフレ時代の到来! エブリシング・クラッシュと新秩序』(集英社)の一部を再編集したものです。

エミン・ユルマズ氏
写真=Rikimaru Hotta
エミン・ユルマズ氏

たやすく利上げができないジレンマ

このところ米国のインフレはやや落ち着いてきてはいるものの、2025年にFRBが0.25%を数回、あるいは一度に0.5%の利下げを行えば、再びインフレ率は上がってしまうだろう。なぜ私がそう思うのかというと、2024年9月にFRBが4年半ぶりに通常幅の2倍である0.5%の利下げを実施した後に、事実上、米国の長期金利が0.5%上がってしまったからである。

これは原則と矛盾していた。長期金利が上がったということは、市場のインフレに対する期待が高まっていることの表れであるからだ。そしてこのことは、世界の中央銀行が難しい局面に差しかかっていること示していた。

前回FRBが0.5%の利下げを行ってからわずか3週間で、米国の借金が約0.5兆ドル(約75兆円)も増えた。それだけドルを刷らなければならなかったからだ。こうした現象を見ると、米国のみならず日本やEU諸国も同様に、国が抱える借金が巨大化しすぎた結果、たやすく金利を上げられないジレンマに陥っていることに気づく。

そうした環境のなかで本当にインフレは落ち着いてくるのだろうか。一時的に落ち着いていても、長くは続かないのではないか。私はそんな流れになっている気がしてならない。

米国は無駄使い、ばらまきをやめられない

その懸念が真っ先に現実になったのが“為替”であった。ドル/円がせっかく140円まで下がってきたのに、あっという間に152円まで戻ってしまった。

まず、われわれは各国政府・中央銀行がこういう難儀なジレンマに陥っている現実を理解しなければならない。インフレを軽視してはいけない。なぜなら、こうしたインフレが最終的に世界の政権与党をひっくり返してきたからだ。

インフレを抑制しようと動くと、今度は相場が弱まり株の暴落を発生させ、失業率を高めるという悪循環を引き起こすことになる。

史上最高の株高にドル高。一方で膨大な借金と財政赤字を抱える米国経済はソフトランディングにもっていけるのか? そんな質問をよくいただくのだが、こう答えるしかない。

「相場としてはソフトランディングを想定している。だから、金利は上がっている。しかしながら、米国政府はこれまでのような無駄遣い、あるいは、ばらまきをやめなければならない。けれども、米国にはそれができない」