「103万円の壁」がなくなり、年収160万円まで所得税は非課税となった。FPの黒田尚子さんは「一方、社会保険料の壁は残り、加入か未加入かで手取りは大きく変化する。目先の手取りに目がいきがちになるが、社会保険には病気やケガをした時、老後に自分がもらう年金などで大きなメリットがある」という――。
パソコンの上の源泉徴収票
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所得税の課税最低ラインが年収160万円まで引き上げられると決まったのは今年3月末のこと。以前の「103万円の壁」という水準が大きく動いたわけだが、今回の改正による減税効果は、年2万~3万円程度。物価高が続く今、その程度の減税で暮らしが本当に楽になるのか疑問を感じる方も多いだろう。しかも「壁」は減ったどころか、より複雑になったとも言える。

この改正で最も注視すべきなのは「得られる減税」ではなく、「社会保険の壁」である。社会保険は税金ではないが、会社員なら給料から天引きされるので似たような存在だ。

多くの人がよくわかっていない「税」と「社会保険」の違い

「税」と「社会保険」の制度は、根本的な考え方が異なる。

税は、すべての国民がその所得に応じて国や地方自治体に支払うお金であり、国民の義務だ。

社会保険は、加入者が保険料を支払い、医療や年金、介護、雇用などのために使われる。「保険」という名前の通り、何か困ったときには給付が受けられる相互扶助のしくみで、対価として支払う社会保険料は給付を受けるための「参加費」のようなものだ。

したがって、今春の税制改正によって、所得税の最低課税ラインが160万円になったからといって、それに連動して社会保険料の負担も軽くなるわけではない。むしろ、働き方次第では「社会保険の壁」を越えてしまい、逆に可処分所得が減ってしまうケースもある。

「106万円」「130万円」という「社会保険の壁」がクセモノ

「社会保険の壁」には、主に「106万円の壁」「130万円の壁」がある。

そもそも、社会保険への加入要件は、①週の所定労働時間が20時間以上、②2カ月を超える雇用の見込みがある、③所定内賃金が月額8万8000円以上、④学生ではない、⑤従業員数が51人以上の企業で勤務している、などである。

このうち⑤については、2024年10月以降、対象が拡大。従業員数101人以上から51人以上の勤務先が対象となっている。勤め先が一定規模なら、106万円を超えると社会保険に加入することになる。

つまり、「106万円の壁」は、一定の条件下で、年収が106万円を超えると、自ら厚生年金と健康保険に加入しなければならないというルールだ(後述するように5月の国会で今後の方針も決まった)。

所得税は収入の増加分に対してなだらかに増える一方、社会保険料は収入が一定額を超えると保険料率に応じた額がどんと差し引かれる。