機能が多い商品には拒否感を抱く人が多い
日本社会は成熟し、モノも情報もあふれています。かつては「1台複数役」の多機能商品や詰め込み型のサービスが歓迎されましたが、今は違います。消費者は機能過剰や情報過多に疲れ、シンプルなものを求めています。
マーケティング戦略を学問領域にしている私が「引き算の思考」に注目したのは、2000年代初めのことです。まだ日本の大企業の多くが「盛りだくさん」を競っていました。たとえば、大手家電メーカーは、レシピを音声で教えてくれる電子レンジや天気予報を表示できる冷蔵庫、着うた対応の炊飯器などを続々と発売していました。
しかし、そうした多機能な製品は操作が複雑で、消費者がついていけませんでした。多機能をアピールするほど、特徴や魅力がボヤけてしまう。これが多くの日本の家電メーカーのブランド力が弱くなった一因でしょう。私は「いろいろという色はない」という思いから、無駄を削ぎ落としシンプルを志向することが、人を惹きつける力になるのだと確信するに至ったのです。
この仮説を裏づけるため、私は全国1000人の消費者を対象に、意識調査を行いました。「シンプルな商品は○○である」という文章を提示し、○○に入る言葉を自由に書いてもらったところ「使いやすい」「スタイリッシュ」「飽きがこない」といった、肯定的な表現がほとんどを占めました。
一方で「機能の多い商品は○○である」と尋ねた設問では「使いにくい」「複雑」「高価」といったネガティブな言葉が目立ちました。消費者が「シンプルなもの」に惹かれ、「盛り込みすぎたもの」には警戒心や拒否感を持っていることは明らかです。
シンプルを武器に市場の勝者となったブランド戦略はいくつもあります。アップルはスティーブ・ジョブズが復帰後に手がけた初代iMac(1998年発売)から商品カテゴリーを大胆に絞り、デザインも極限まで削ぎ落として直感的な操作性と美しさを両立しました。
高度経済成長期には「より多く」を求める勢いが社会全体を覆っていましたが、もともと日本人の価値観には俳句や庭園、和食や茶室に見られるように引き算の美学が根づいています。引き算は決して新しい発想ではありません。むしろ、私たちの中に脈々と受け継がれてきた価値観なのです。
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