情動をかき立てるエピソードが記憶を促す
たとえば製品を販売していくにあたって、まずは製品の優れた面や実績を紹介していく。その話の筋を通しながら、顧客からの感想や体験談などのエピソードを交えてみよう。
「ビジネスパーソンをターゲットに疲労回復ドリンクを販売したところ、体を活性化させる力から女性客がダイエットで飲用するようになり、顧客の4割が女性となりました」
「消費者というのは、我々も気付かないところに気づいてくれるものだと驚きでした」
「そこで、女性向けのパッケージを作ることになり、同じ中身でパッケージを黒とピンクの2色展開にしました。すると女性客はさらに2倍に増え、栄養ドリンク市場シェアも5位となったのです」
「このドリンクをクラブで試飲配布してみると、今度は若年層にはエナジードリンクと認知されるようになりました――」
ここでは、簡略化したエピソードを、商品の販売促進実績という串にさしてみた。脇にそれた話に見えながら、①商品の3側面(疲労回復、ダイエット、エナジードリンク)、②マーケティング(消費者の視点、新側面)、③売り上げ増加(販売数と消費者拡大)、④販売戦略(パッケージ開発、新規ターゲット開拓)などを盛り込んでいる。エピソードに載せて関心を引くことで、ひとつの話を持続して聞く刺激になり、記憶を促し、ひいては説得力にもつながっていくのである。
脳科学の実験でも、同じ話をしたとしても、情動をかき立てるエピソードになるだけで刺激となり、格段に記憶を促すために優位に働くとされている(*)。日常的にビジネスで使う言葉に、黒とピンク、クラブ、エナジードリンクなど、少し刺激のある言葉を加えたり、場面をイメージさせたりするだけでも効果はグンとアップする。
もちろん、時間がないエレベータピッチなどの話は別であり、まずは結論を伝えてわかりやすくすることは大前提だ。けれども、じっくり話すときには一貫したテーマに、実際に起こったエピソードや感想、刺激のある言葉を加えていくことで、聞き手を飽きさせずにすむ。さらには真実味も増し、盛り上がりにも一役買い、話を最後まで聞かせるような変化と魅力の維持に一役買ってくれることだろう。
[参考資料]
*フレデリック・フュアー、ダニエル・ライスバーグの映像記憶実験。
『記憶と情動の脳科学』(ジェームズ・L・マッガウ著 大石高生・久保田競訳 2006年 講談社)