トランプ氏が貿易関税にこだわる理由

2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領が就任以来、予想外の政策を次々と打ち出している。以前から述べているように、彼の政治手法は、政策の意義を丁寧に説明するのではなく、国民を驚かせたり脅したりしながら、関心を引きつけ政治目標を達成しようとする「デマゴーグ」的なものだ。

ホワイトハウスとアメリカ国旗
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大統領は二期目に入ると後世への評価を意識し、より常識的な政策を打ち出すのではないかとひそかに期待していたものの、その期待は裏切られた。米国際開発局(USAID)の事実上の廃止、多様性政策の予算停止、ガザ地区の米国領有、富豪イーロン・マスク氏が率いる効率化省による財務省の監視など、極端な政策が続いている。司法の介入による抵抗もあるが、連邦最高裁の判事にはトランプ大統領が指名した者も多く、司法の抑制力には限界がある。彼は自身の言葉の信憑性には無頓着だが、政敵への報復など、自ら掲げた目標の実現には余念がない。

ここで重要な疑問が生ずる。「なぜ米国国民は、彼の人柄や政策の行き着く先を理解しながらも、僅差とはいえ再びトランプを選んだのか」ということである。この質問に答えるのに、じつは国際経済学の基本が役立つのである。

ドナルド・トランプ氏が行政命令を掲げる様子
写真=時事通信フォト
2025年2月10日、米国ワシントンD.C.のホワイトハウスの大統領執務室で、ドナルド・トランプ氏が行政命令を掲げる様子

世界各国は、貿易、為替、国際投資、移民などで密接に結びついている。国際経済学は、こうした相互作用を分析し、各国が自国の利益を最大化しようとする「経済外交のゲーム」を解明する学問である。

自由貿易は一般に各国の経済を豊かにし、生産要素の報酬(企業収益率や労働賃金)を均等化する傾向がある。しかし、これが米国の労働者にとっては脅威となる。特に、AI(人工知能)技術に適応できず賃金が上がらない労働者にとって、自身の賃金が途上国並みに下がる可能性があることは恐怖以外の何物でもない。

この賃金均等化を防ぐために持ち出されるのが「関税」である。トランプ大統領は、関税は米国民ではなく貿易相手国への課税だという旨を主張するが、実際には輸入業者が支払い、最終的には米国の消費者が価格上昇という形で負担する。例えば、日本車に高関税を課せば、日本の輸出業の収入が減るだけでなく、米国の消費者も高い価格を支払うことになる。

また、関税による収益は米国財務省に入るが、それだけで米国全体が豊かになるわけではない。なぜなら、関税による税収の増加以上に、価格上昇による消費者が負担する経済的な損失(消費の縮小)が発生するからだ。このため、一国の政府が一方的に関税を引き上げる場合でも、消費者の負担を差し引いて最大の利益を得られる水準を計算する必要がある。これが「最適関税」という概念だ。

しかし、貿易交渉は一国だけで完結するものではない。現在、米国がカナダに25%の関税を課すと、カナダも米国製品に関税をかけると宣言している。このように国際社会で関税をかけあう政策ゲームが発生すると、両国間の貿易量は一層縮小し、両国の経済が悪化する可能性がある。事実、1930年代の世界恐慌も、各国が報復関税を繰り返したことが引き金となった。

もちろんトランプ政権も、自ら大不況のきっかけとなりたいわけではない。デマゴーグとして国民や相手国に働きかけるために、拳を振り上げて相手を牽制するしぐさを示めそうとしたわけだ。例えば、中国に対して一律10%の追加関税を課すと宣言することで、中国の知的財産権問題をチェックする狙いもある。