人間は死んだ後、どうなるのか。元東京都監察医務院長の上野正彦さんは「四季がある日本では暑い季節は腐敗が進みやすく、最終的に白骨化する。一方、寒い季節は腐敗しにくく乾燥するから、ミイラ化していく」という。著書『死体はこう言った ある監察医の涙と記憶』(ポプラ社)より、一部を紹介する――。
死んだ場所によって死体の状態は異なる
生きているとき、人体は全身にはりめぐらされた血管によって体中に血液が流れ、それにより恒常性が保たれている。しかし、死んでしまった体には血液が流れていないので、同じ人間の死体であっても頭とお腹と手足で異なる変化が見られる。
手指のような末端部分は乾燥しミイラ化しやすいし、臓器が詰まっているお腹のあたりは腐りやすいなどと、それぞれ異なる経過を辿る。
季節だけでなく、死体が置かれているのが一階か高層階か、北側の部屋か南向きの日当たりのいい部屋かなど、死んだ場所によっても死体の状態は違ってくる。
一人暮らしだけではなく、老夫婦や老いた兄弟姉妹の二人暮らし、親子同士の老々介護の家で二人の死体が発見されることもある。
どちらが先に死んだかを知るには、死体の状態を手がかりにしなければいけないのだが、太っていて皮下脂肪の多い女性と痩せた男性とでは、腐敗の速度が違ってくる。
日差しの当たる場所では腐敗しやすい
また、心中事件などでは、同時に青酸カリを飲んで死んだのに、片方は腐敗が速く進み、もう片方はほとんど腐敗していない、ということが起こり得る。
もうおわかりだろうが死んでからの体の状態は外気の温度や湿度に相当左右される。同じ部屋で心中しても、窓からの日差しが強くあたるところに横たわっていた死体は、腐敗が速く進むのである。
このように死体所見を見ただけでは、1週間ほど差があるように見えても、実際にはほぼ同時に亡くなっているということはあり得る。
ちなみに妊婦も早く腐敗する。妊娠中の体は水分量が多く、体温も高く、新陳代謝がいいからだろう。