それ以外にも、サンプリングをはじめとしてさまざまなプロモーション活動を予定していたそうだが、発売とほぼ同時に商品が大人気化し、供給が追いつかなくなったため、すべてを取りやめたという。

需給の逼迫は生産力の問題と言い換えることができる。当初、群馬県館林市にある関東工場では、1ラインでこの商品を製造していた。発売時点では年間販売数量(予想)を1億食としていたためである。ところが、好調すぎる売れ行きから3カ月後の12年2月には、予想を2億食に引き上げている。生産ラインも2ラインにした。この商品の場合、従来のものと製造方法がまったく異なるので、新たな生産ラインを起こさなければならず、そのためのコストは馬鹿にならない。だが高業績を追い風にして、本年春をめどに、3ライン体制をとるという。これにより生産力は、これまでの1.5倍(年間3億食)に増強し、需給の逼迫を緩和しようとしている。

ところで今回、堀氏から特記すべき興味深いご意見をいただいた。筆者は、どんなに品質のよい商品が完成しても、それ以後のマーケティング活動が適切になされなければ、良好な成果は得られないと考え、大学でもそう教えている。しかし堀氏によれば、このような考え方は10年くらい前の発想だという。今は SNSをはじめとして、さまざまな情報ネットワークが張り巡らされているので、「良質なモノ」を出していけば、一般消費者の高評価のつぶやきによって、口コミでどんどん広がっていくという。つまり、よいモノを作っていれば高成果につながるという「商品志向」的な考え方だ。

確かにこれは事実であるかもしれない。が、字義通りに鵜呑みにすることはできない。高度情報化社会の現代に至っても、やはり単純な商品志向だけでは、高成果は望めないと思われる。実際、東洋水産は「マルちゃん正麺」に関して、テレビCMだけでなく、小売り店頭にこの商品を並べてもらうために、かなりの努力を払っているからだ。小売り、卸などの流通企業を口説き落とすため、商品発売前の11年9月の時点で新商品発表会を全国7カ所で行っている。北海道、仙台、東京、静岡、名古屋、大阪、福岡でホテルの会場を確保し、社長、営業本部長らが商品コンセプトからしっかり説明を行い、その後に場所を移して試食会も行っている。通常、このようなイベントの際、会場の設営は代理店に依頼するのが普通なのだが、同社では営業サイドが会場設営のすべてを行った。これにより、「東洋水産は本気だぞ」との意気込みを伝えることができたという。

「マルちゃん正麺」の大ヒットは、商品の品質のよさを極め、かつ同社の袋麺で過去最高といえるテレビCMを実施し、さらに流通業者を説得するための地道な取り組みが奏功した結果といえるだろう。

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