このようなシビアな過程を経て、後の大ヒット商品となる「マルちゃん正麺」のディテールが決まっていった。例えば、金色のパッケージに関して、堀氏は、「(この商品に)自信があるというのと、プレミアム感も出ますし、あとは目立つというのも当然そうですし、今までのものとは違うんだよということを伝えたかったのです」と言う。
パッケージによるメッセージの発信はそれ以外にもある。「マルちゃん正麺」の袋に印刷されたラーメンの写真には、具材が器の端のほうにちょっと寄せられているだけである。麺の部分がその大勢を占めているのだ。この理由について堀氏は、「やはり麺に自信がありますので、麺を見ていただいて、それを感じてもらいたいということなのです」と指摘する。通常のラーメンの見せ方は、具材をふんだんに盛り込み、トータルとしてのラーメンの味を想像してもらうという装いをとるのだが、このパッケージでは、麺のよさを徹底してアピールしているのである。
また、商品の上質性や王道感を伝えるうえで、同社のプロモーションは、傑出している。テレビCMでは、大物俳優の役所広司氏を起用し、「嘘だと思ったら食べてください」というキャッチーな台詞を語らせている。これは、商品の味に絶対の自信があるからで、とにかくトライアルさえしてもらえれば、必ずリピートしてもらえるという自信があるのだ。役所氏は、俳優としてまさに超一流で、発信するメッセージにも説得力があり、王道を目指すこの商品にベスト・マッチしたキャラクターといえる。
良質商品を作ればSNSで自然に広がる?
このCMコンテンツのバックはホワイトにし、音楽も控えめにしている。これは、普通の即席麺に比べ、品のよさや上質感を醸成しようと意図したからだ。同社では、袋麺に関して「昔ながらの中華そば」で、かなり大規模なテレビCMを行っているが、マルちゃん正麺はそれを凌駕している。まさに戦略的商品として、同社が経営資源を大量投入するだけの価値ある商品と位置づけているのである。
ただし現状でのプロモーション活動は抑え気味だという。これはヒット商品によくあることなのだが、需要に供給が追いつかないままCMを打っても、小売り店頭で商品がないと、クレームや企業不信につながりかねないためだ。発売当初はさまざまなキャンペーンを実施していて、例えばバーコードを集めて応募すると、役所氏の声で時間を知らせてくれるタイマーをプレゼントしたり、パッケージの金にあやかってクイズに答えると、抽選で純金プレートをプレゼントしたりした。