それ以外にも同社の麺へのこだわりはさまざまある。この商品の麺の長さは、かなり短く設定されている。即席麺の平均麺長は65センチなのだが(日本即席食品工業協会調べ)、この商品はわずか25センチから30センチしかない。このわけは、子供への取り分けのしやすさや高齢者の食べやすさを考えてのことだ。また、この麺は、1度きちんとほぐしてから、丸い形にして乾燥されている。これにより、鍋で麺を煮炊きするときに固まりにくくほぐれやすくなる。もちろん丸い形状は鍋の形にフィットするので、調理もしやすい。つまり、この商品は消費者の利便性を徹底的に追求したものなのである。
さらに麺の太さも一様ではなくスープによって変えている。醤油味と塩味は中太麺、味噌味は太麺、豚骨味は細麺という具合だ。これは、製造工程でのフェース効率を考えると好ましいことではないが、「正麺」と名づけた味へのこだわりを反映しているといえる。
ただ、興味深いのは、スープの味に関して、ターゲットとの絡みであえて個性的にしないという点だ。堀氏は、「極端に味をとがらせてしまうと、アレンジ性に欠けてしまいます。またとがってしまうと、飽きられやすくなります」と指摘する。マルちゃん正麺の場合、ターゲットは「老若男女」と全方位である。小売店で主婦に手に取ってもらうことはもちろん意識しているそうだが、食してもらいたい顧客は、老若男女のいわゆる「オールターゲット」だというのである。
この商品は、発売の前段階で、組織横断的にかなりの議論がなされている。製造技術面では上記の通り、06年から総合研究所で取り組まれていて、試行錯誤が繰り返されてきたが、09年からは即席麺本部のメンバーがそれに加わり、さらに10年からは資材や工場などの担当者が参加して積極的な意見交換がなされている。例えば、製造担当者は今まで取り組んだことのない製造方法なのでそれがちゃんとラインに収まって大量生産のベースにのるのかどうか。資材担当者はこれまで扱ったことのない金色のパッケージに関して実際に生産ラインでそれが巻けるのかどうか。さらに、営業サイドはなるべく早く発売したいがいつになるか、といった意向や疑問が交錯し、侃々諤々の議論が戦わされたという。