東洋水産即席麺本部営業部マーケティング課の堀和憲氏によれば、「極端な話をすれば、夕食に出しても家族が怒らない」ような「美味しい食事」を目指したというのだ。その意気込みはブランド名にも表れている。「マルちゃん正麺」の「正麺」という聞きなれない名称は、即席麺でありながらも生麺の本来の味が楽しめる仕様にしているところにある。ラーメンの王道を追求し、本格的に美味しい食事を提供しようという意気込みが表れているのだ。同商品の発売のタイミングのとり方も絶妙だった。同社では08年のリーマンショック以降、「内食、中食」志向という消費トレンドがあることを掴んでいた。また東日本大震災の影響で、非常食を常備しておこうというムードを鋭敏に捉えていた。業界の二次データだけでなく、2年に1度行っている定期調査により消費者の節約志向、安全志向を反映した内食化傾向、および袋麺がカップ麺より需要が落ち込まないこと等を把握していたのである。このような時期なら、「本当に美味しいものを出せば、いけるだろうという感覚があった」と、堀氏は語る。

この大ヒット商品が誕生するまでに約5年の研究開発期間があった。06年から同社の総合研究所で着手された新商品開発の研究は、最終的に「生麺うまいまま製法」という独創的な製造手法として結実している。この独自の製法について明らかにしてみよう。

袋麺は一般に揚げ麺とノンフライ麺に分けることができる。揚げ麺は、1度油で揚げて水分を飛ばして保存性を高めるという方法だ。これは、フライにしているので気泡が大きくできてしまい、フカフカした食感になる。無論、油分が入って、独特の美味しさを実現できるのだが、その食感から食事というよりはスナックに近いようなものになる。これに対して、ノンフライ麺というのは麺を油で揚げる代わりに熱で乾燥する。これにより麺は硬くしまり、実際に調理する際に少し時間がかかるものの、かなり生麺に近い食感になる。

マルちゃん正麺は大まかに言えば、ノンフライ麺のジャンルに入るのだが、この商品は麺を揚げていないだけでなく、蒸してもおらず、切り出した生の麺をそのまま乾燥させている。生麺を一気に乾燥させるとその美味しさを封じ込めることができ、それを茹でればまた元の状態に戻る。この新規性を消費者に感じてもらおうと考え、同社はあえて「生麺うまいまま製法」と名づけたのだ。この製法で作られた麺は、歯切れのよい腰とツルンとする滑らかさを実現している。