「チョコレートにはホワイトチョコもある。でも同じカカオ豆が原料のココアには、どうして白い粉がないんやろ?」
飲料ビジネス部マーケティングスペシャリストの木村麻子さんの脳裏に素朴な疑問が浮かんだ。
2009年6月、ココアブランドの刷新のため、リサーチを開始し始めたころのことだ。ネスレ日本はスイスに本拠を置く世界的食品メーカーの日本法人。「ネスカフェ」などインスタントコーヒーで幅広く知られているが、同社にココアというイメージはあまりない。同社では1999年から「ネスレ 本格欧風ココア」(販売終了)を販売してきたが、木村さんが所属する飲料ビジネス部で同商品をテコ入れすることになった。
ココア市場全体で見ると、96年にTV番組がきっかけでココア旋風が巻き起こった後、他社の黒豆ココアがヒットした経緯があるが、昨今では同社の「本格欧風ココア」など大人向け商品以外、ファミリーや子供向けは横バイか微減状態が続いていた。そこで大人向けにフォーカスした商品を新たに打ち出そうと模索していたときに、冒頭の疑問が浮かんだのだ。
木村さんは原点に立ち返り「消費者はどんなときにココアを飲んでいるのか」を検証していった。
その結果、甘さを求めてデザート代わりに飲んでいる人が多いのではないかという仮説を立てた。自身の体験に置き換えても、夜遅くにケーキを食べるのは罪悪感があるが、ココアなら飲めるし満足感もある。木村さんは1つひとつ仮説を立てながら、ビジネスモデルをガラリと変えることにした。
当時、チョコレートがブームとなっていたこともあり、ホワイトチョコから連想してホワイトショコラショーという海外の飲み物が思い浮かんだが、日本の家庭ではまだ気軽に飲めるものではないし、以前カフェで飲んだホワイトショコラショーは甘すぎて飲みきれなかった。しかし、何かいい方法があるのではないかと模索していたときに出会ったのが、人気スウィーツショップ「ル パティシエ タカギ」のオーナーシェフである高木康政さんだった。