日本の若者の自己肯定感の低さが問題視されている。内閣府によれば「自分自身に満足している」と回答した若者の比率は、欧米諸国が8割を超えているのに対し、日本は45.8%と極めて低い。心理学博士の榎本博明さんは「この数字を根拠に、日本の若者の自己肯定感が低いと結論付けるのは間違っている。文化的背景を踏まえれば、この結果はごく自然のことだ」という――。

※本稿は、榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)の一部を抜粋・再編集したものです。

日本人は「自己肯定感が低い」のか

自己肯定感を高めようという動きが大々的に始まったのは、国際比較調査のデータを見て、日本の若者の自己肯定感が欧米の若者と比べて極端に低いとされたことがきっかけになっている。まずはその種のデータをみてみよう。

国立青少年教育振興機構が2015年に実施した「高校生の生活と意識に関する調査」の報告書をみると、「自分はダメな人間だと思うことがある」という項目に「とてもそう思う」もしくは「まあそう思う」と答えた高校生の比率は、アメリカでは45.1%なのに対して日本では72.5%というように、著しく高くなっている。自分はダメな人間だと思うことがあるという高校生は、アメリカでは2人に1人もいないのに、日本では4人のうち3人近くもいるのだ。

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内閣府は、2013年に、各国の13歳〜29歳の青少年男女を対象に「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」を実施している。そのデータをみると、「私は自分自身に満足している」という若者の比率は、アメリカ86%、イギリス83.1%、ドイツ80.9%、フランス81.7%というように、欧米諸国は8割を超えている。それに対して、日本は45.8%と極めて低く、欧米諸国の半分に近い比率になっている。

この二つの調査結果を盛り込んだ「日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について」という参考資料が、2016年の秋に開かれた第38回教育再生実行会議に提出された。そして日本の子どもや若者の自己肯定感が低いことが問題視され、自己肯定感を高めるための施策が真剣に検討されることとなった。

内閣府が行った調査でも…

こうした調査結果を日本の若者の自己肯定感の極端な低さの証拠とみなしたこと自体が、僕からすれば見当違いなことだったのだが、それについては後ほど解説することにして、もう少しデータをみていくことにしよう。

内閣府は、2013年と同様の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」を2018年にも実施している。そのデータをみると、「私は自分自身に満足している」という若者の比率は、アメリカ87%、イギリス80.1%、ドイツ81.8%、フランス85%というように欧米諸国は前回同様8割を超えているのに対して、日本は45.1%と相変わらず極めて低く、やはり欧米諸国の半分に近い比率になっている。

欧米の若者と比べて日本の若者の自己肯定感が低いのは問題だとして、自己肯定感を高めるためにほめるなどさまざまな試みが行われているにもかかわらず、欧米との歴然とした差は一向に縮まる気配がない。

内閣府は「子供・若者の意識に関する調査」というものも行っている。それは13歳〜29歳の男女を対象としたものだが、そのデータを見ても、「今の自分が好きだ」という若者の比率は、2016年の調査では44.8%、2019年の調査でも46.5%となっており、自分を肯定する者はいずれも4割台に止まっている。

「今の自分に満足している」という項目は、2016年の調査にはなかったが、2019年の調査では、これを肯定する若者は40.8%にすぎない。