日本は今や“貿易収支”より“所得収支”で稼ぐ

そもそも、自国の通貨価値の毀損による不労所得のかさ増しで、本質的な意味での日本経済の未来があるのか?(写真=AFLO)

そして、今やわが国は貿易収支よりも所得収支によって経常収支の黒字を稼ぐ成熟国家タイプの経済構造となっている。大手企業は特に、ということになるが、海外活動の拠点が拡大している分、円安となれば海外資産の評価額が上昇し、海外からの配当や利息の受け取りも増える。畢竟、グローバル企業の株価が上がる構図となっており、輸出自体で儲けるというよりも、いわば不労所得である所得収支などの株価に与える影響のほうが結果的に大きくなっている形だ。

各国が通貨切り下げを試みているのに日本だけが手をこまねいている必要はない、円安に仕向けるべく、日本も大胆に金融緩和をすべきという議論も今や主流だが、これも硬直的すぎる。米国は今もドル安戦略を採用しているのか。市場参加者が通貨安政策を認識したオバマ大統領の10年の一般教書演説では「輸出」という言葉は「倍増」という言葉をともないつつ計5回登場した。それが本年の演説ではわずか1回、しかも倍増という言葉は消えている。つまり、米国はこれまでの輸出倍増を目論んだドル安政策を転換したと見るほうが妥当だ。それなら、無理に日銀が資金供給を増やさなくてもドルは上がりやすい状況となっている。

そもそも自国の通貨価値を毀損することで不労所得のかさ増しを図ることに、本質的な意味での日本経済の未来があるのか。実感なき好景気の00年代ですでに経験済みではあるが、株で生活が成り立つ超富裕層や一部の大企業関係者には好ましくとも、多くの一般国民には恩恵はなかろう。過去の踏襲を避けるためにも、結果ではなく原因自体にスポットをあて論議を深めるときがきているのではないか。

(写真=AFLO)
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