性被害に遭った子どもが、被害をなかなか周りに相談できないのはなぜなのか。犯罪心理学者で、性暴力被害者のケアや心理分析などに携わってきた櫻井鼓さんは「加害者が知り合いだったり社会的立場が上の人だったりすると、被害者が相手を非難することは難しくなり、『自分が悪いのではないか』と思ってしまうことがある」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、櫻井鼓『「だれにも言っちゃだめだよ」に従ってしまう子どもたち』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。

登校拒否の子ども
写真=iStock.com/Thai Liang Lim
※写真はイメージです

「部屋、使っていいよ」

子ども:ウチの親、仲悪いんだ

加害者:そうなんだ。家にいるのがいやなの?

子ども:うん。あんまり家にいたくない

加害者:だったら仕事に行ってる間はおれの部屋、使っていいよ

ほかの大人の目に触れない状況を作る

前のシーン(第2回)では、周囲との切り離しの中でも、関係性からの切り離しについてお伝えしました。ここでは、物理的な状況からの切り離しの手口について説明していきたいと思います。

ちなみに、感覚をしゃ断されるような環境かんきょうに置かれると、人の思考の働きはにぶくなると言われています。物理的に切り離されて特殊な環境に置かれれば、いつもと同じような判断ができなくなる可能性はあるでしょう。

加害者は、性的行為に導くことができるように、周りから見られないような物理的状況をつくり出します。これは、対象と2人きりになれる状況ということですが、それだけではありません。加害者1人と、子どもが複数いる状況というのもふくまれます。つまり、ほかの大人の目に触れないということです。

「2人きり」になれる状況に注意する

このように書くと、どこかにさらっていくのではないかと思われるかもしれません。でも、そうではなく、日常の一場面のように見せかけられてしまうところに、なかなか気づきにくい難しさがあります。

これから挙げるいくつかの場面が、必ずしも悪いとは言えませんし、確実に性的グルーミングにつながるというわけでもありませんが、注意をはらいたい、という観点でお伝えしたいと思います。

たとえば、個室トイレ、空き教室や会議室、ちょっとした死角などのような、身近なところで2人きりにされる場合です。

こういう場所で、おもちゃやゲームといった遊びとか、「(状況的に違和いわ感のない)○○を見てほしい」などと言葉たくみに誘われるといったことがあります。仕事や教育活動で必要とされている時間帯以外は、不用意に家族以外の大人と2人きりにならないほうがいいのかもしれません。