美容クリニックの数が急増している。厚労省が2024年11月に、3年に1度実施する「医療施設静態調査(23年版)」を公表した。美容外科の診療所(美容クリニック)は2016施設と前回調査から44%(612施設)増えた。日本女子大学名誉教授の細川幸一さんは「医師免許取得後、2年間の臨床研修を終えてすぐに美容医療(保険外の自由診療)に進む医師(直美)が増えている。医師の未熟さ、治療を目的とした保険診療の医師不足の原因とされ、放置すれば日本の医療制度は維持できなくなる」という――。
病院の廊下
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「直美」は医療制度崩壊のサインか

「直美」(ちょくび)という言葉がニュースに登場するようになってきた。医学部を卒業した医師のたまごが医師免許取得後に受ける2年間の臨床研修を終えてすぐに美容外科など美容医療に進む経歴や医師をさす言葉だ。

医学界で最近、医学部二つ分の入学定員数に相当する医師が直美だと推定されるとして話題となった。一般的な医学部の定員は100人位なので200人ほどだ。毎年約9000人の医師免許取得者のうち約2%にあたる。

また、保険診療を行う病院の勤務医等で大手美容医療チェーン店等に移籍するケースが増えていることも指摘されている。美容医療は保険が適用されない自由診療が通常であり、医師の報酬も高額であることが原因だ。年収2000万円以上をうたう美容外科の求人広告もよく見かける。美容外科医院経営者のセレブな暮らしがメディアで紹介されることも多い。

以前より、自由診療である美容医療の消費者トラブルが問題視されてきた。その多くは、釣り広告などによる高額報酬の請求、不適切と思われる施術の売り込みなどであったが、近年は施術によってむしろ傷害を負わせてしまうような医療事故なども目立ってきている。

その背景には「直美」のような臨床経験の乏しい美容医療医師の増加も指摘されている。また、疾病や怪我の治療ではない審美性を求める美容医療分野の医師の増加てみよう。

増え続ける相談件数

「レーザー脱毛」「豊胸」「脂肪吸引」「包茎手術」といった医師が行う美容医療施術において、その販売方法や広告に問題のあるものや、皮膚障害や熱傷など危害を受けたという相談が全国の消費生活センターの多数寄せられている。

2024年7月30日に国民生活センターが発表した資料によると、図表1の通り、相談件数が急増している。

あまりのひどさに消費者行政の監視役として2009年に創設された内閣府の消費者委員会は過去に2度、厚生労働大臣に是正を求める建議を出しているが効果は上がらず、むしろ相談件数が急増している。

金銭トラブルに加えて、皮膚障害や熱傷を負ったという「危害」相談も多く、医療事故が多発する事態になっている。美容医療による怪我などの相談件数は、23年度に約800件と18年度から2倍に増えた。合併症が起きても、患者が対応を断られるケースが起きている。