なぜ放出したコメを買い戻すのか
備蓄米を将来的に国が買い戻す条件付きでJAなどの集荷業者を対象に販売するという。
買い戻す条件付きで放出するなどということがあったのだろうか? おそらく米価が異常に高騰しているので、農林水産省やJA農協の生産抑制の指示にもかかわらず、農家は今年(25年)産のコメの作付けを大幅に増やすと、農林水産省は考えているのだ。今年9月ころコメの収穫量が増加したときに、放出した備蓄米を市場から引き揚げることによって、米価の低下を抑えようとしているのだろう。
しかし、放出してもいずれ市場から引き揚げるのであれば、コメの供給量は増えない。米価を引き下げる効果はない。
コメの流通を担っているのは、卸売業者である。食糧法の規定(第29条、第47条)では、政府が備蓄米を売り渡す相手を集荷(出荷)業者及び販売(卸売)業者としているのに、なぜ売り渡す相手先を集荷業者に限るのか。今回のコメ騒動で農林水産省は一貫して卸売業者に責任を転嫁してきた。卸売業者悪玉論である。
そこで、「集荷業者に販売する」としたのだろうが、これで果たして供給が増えて米価は落ち着くのだろうか?
集荷業者に備蓄米を販売しても、そのコメは卸売業者を通じてスーパー等に販売される。農林水産省が主張する卸売業者悪玉論に従うと、卸売業者が売り惜しみすれば、備蓄米を放出してもコメの供給量が増えることはない。
ここで重要な点は、集荷業者とはJA農協(全国団体は全農)だということだ。
コメの集荷に多数の業者が参入してJA農協の集荷量が減少しているからJA農協に販売するのだという報道がある。それなら、JA農協の販売量を増やしてその販売手数料収入を増やすことが目的だということになる。消費者のためではなく露骨な業界保護だ。
過去には、豊作になってもJA農協が在庫操作を行うことで米価を引き上げたこともあった。農林水産省は、全農に備蓄米を販売することで、全農が在庫操作を行い市場に出回る量を調節する(放出量をそのまま市場に流さない)ことを期待しているのだろう。買い戻す条件付きも販売先をJA農協に限定するのも、やむなく備蓄米を放出するが、それが米価を下げる効果をできる限り抑制したものとしたい、できればそのような効果はないものとしたいと、農林水産省が考えるからではないだろうか。
備蓄米制度は国民のためになっていない
備蓄米は毎年20万トンずつ主食用米(1万5000円/60kg)として買い入れ、放出しなければ5年後にエサ米(1000円/60kg)として処分する。年間500億円、100万トンの備蓄なのでトータル2500億円の財政負担が生じる。負担しているのは国民・納税者である。
しかし、米価が高騰しても備蓄米は放出されない。国民・納税者は消費者であるのに備蓄米制度の利益を受けない。それだけではない。実際には、備蓄米は毎年20万トン市場から隔離することで米価維持の役割を果たしているのだ。利益を得るのはJA農協である。しかし、国民・消費者は備蓄米制度があるために高い米価を払わされているのだ。
こんなことを許していいのだろうか。