コメ不足を認めない農水省
24年夏、減反政策で生産量を減らしていたところに、猛暑による高温障害が追い打ちをかけて供給不足が起こり、スーパーからコメが消えた(参考記事〈このままでは「令和の米騒動」が繰り返される…コメ不足を放置して利権を守る「農水省とJA農協」の大問題〉)。
しかしこの時、農林水産省はコメ不足を認めようとはしなかった。現にスーパーにコメがないのだから、需給が逼迫していないわけがない。それなのに、同省は、民間備蓄は十分あるので需給は逼迫していないとして、大阪府知事からの備蓄米放出要請を拒否した。そのかわり、卸売業者等に在庫の放出を要請した。卸売業者が在庫を抱えて流通段階で不足が生じているとして、責任を卸売業者に押し付けたのだ。
在庫には金利や倉庫料の負担が伴う。在庫はできる限り持たないに越したことはない。それなのに在庫を持っていることは、継続的に特定の実需者に供給しなければならないとか端境期に必要量を供給しなければならないなどの理由があるからである。在庫があってもスーパーでの不足を埋めるために直ちに使えるものではない。自由に在庫が処分できるのであれば、米価が高騰しているのだから、農林水産省の要請を待つまでもなく、卸売業者は在庫を取り崩して小売りに販売し、大きな利益を上げたはずである。

「先食い分」を埋められていない
実は、8~9月に農林水産省が卸売業者に要請する前に、既にコメ業界は不足分を在庫の取り崩しで対応していた。その結果、2024年7月末の在庫は前年同期より40万トン少ない82万トンと近年にない低水準となっていた。この在庫減少分40万トンは前述した不足量と符合する。毎月の販売・流通量が45万トンだとすると、7月末の在庫は8~9月の端境期までのコメ消費を賄えない異常な事態だった。
農林水産省は9月になれば新米(2024産米)が供給されるので、コメ不足は解消されるという見方をしていた。坂本農林水産大臣(当時)は「今後、新米が順次供給され、円滑な米の流通が進めば、需給バランスの中で、一定の価格水準に落ち着いてくるものと考えています」(24年9月6日記者会見)と主張した。「需給バランスの中で」とは、供給が増えるから価格は低下すると言っているのである。だが、価格は逆に上昇した。
コメは、9月ころに収穫したものを倉庫で保管し、10月から翌年9月の収穫時までナラシて(各月ほぼ均等に)販売・消費する。昨年夏にスーパーの店頭からコメが消えたのは、この時期が端境期になっているからである。農林水産省は、いずれ24年産の新米が供給されるのでコメ不足は解消されると言ったが、24年産米は本来24年の10月から25年の9月にかけて消費されるものである。24年8~9月は、24産の新米を先(早)食いしている状態だった。
先食いしていれば、24年10月から25年9月まで供給される量はその分だけ減少する。その証拠に、24年10月、11月の民間在庫は、前年同月と比べて、それぞれ45万トン、44万トン減少している。先食い分が埋め合わせられていないのだ。