フジテレビの現役社員の証言
なるほど、日枝氏の「影響力」は、私が複数のフジテレビ社員から聞いた範囲ですら、すごい。
もっとも鮮明に覚えているのは、20年前の出来事である。
「ライブドア事件」を覚えているだろうか。ホリエモンこと堀江貴文氏をはじめとする、同社の幹部が、決算報告書に虚偽の記載をした証券取引法(当時)違反により2006年に逮捕・起訴され、有罪判決が下された事件である。
この前年、2005年に、堀江氏は、ニッポン放送の株式を大量に取得している。ニッポン放送は、フジテレビの株を大量に持っていた、実質的な親会社だった。「ホリエモンがフジテレビを支配するのではないか」世間からは、そう見られていた。
2カ月あまりに及ぶ騒動の末、堀江氏は、当時、フジテレビの会長だった日枝氏とともに記者会見を行い、ニッポン放送株をフジテレビに売却し、同社を引き受け手にした第三者割当増資を発表する。
ここから日枝氏は「本領」を発揮した。
当時、フジテレビ報道局社会部で東京地方検察庁特別捜査部(=東京地検特捜部)を担当していた記者のひとりによると、「ホリエモンの疑惑を調査しろ」という“特命”があったという。記者たちは、日夜、報告するだけではなく、特捜部に対してネタを持ち込む。
逮捕後には、フジテレビでは堀江氏らの「疑惑」にまつわる独自ネタ(スクープ)が、連日連夜、報じられた。結果として、堀江氏らが罪に問われなかった「疑惑」でも、堀江氏が、いかにワルだったのかを印象づけるには、十分すぎるほどだった。
こうしたエピソードは、月刊誌『ZAITEN(ザイテン)』でも報じられたほか、堀江貴文氏も自身のYouTubeチャンネルで言及している。
日枝氏が辞めれば問題は解決するのか
ほかにも、番組に対して「鶴の一声」もあったという。あまりに強い「影響力」と言えよう。
だからといって、中居氏をめぐるトラブルについて、日枝氏が関係しているとは思えないし、問題は、そこにはない。
たしかに港氏と嘉納氏の辞職をトカゲの尻尾切り、と見られても仕方がない。
たとえ経営責任があるとはいえ、今回の事案(中居氏をめぐるトラブル)への対応、その後の記者会見、それに伴う、CMスポンサーの撤退をもって、いきなり退任するほどのことなのか。
仮に、「日枝氏が戦犯」とか「日枝氏を吊し上げろ」、との要求がかなえられ、同氏が記者会見に応じたら、瞬間的にスカッとする人はいるだろう。今回の記者会見で怒号を響かせていた「記者」たちは、87歳の高齢者に罵声を浴びせるに違いない。
溜飲を下げられる反面、いま問われていることから目をそらす恐れが高いのではないか。日枝氏をスケープゴートにするだけで、何も変わらないのではないか。