スペアキーの封を開け、使用後に再度糊付けし…
同行の発表によると、元行員(今村 由香理、1月14日、窃盗容疑で逮捕)は、2020年4月から2024年10月、単独で貸金庫から顧客の資産を盗んだ。元行員は、支店の貸金庫や予備(スペア)の鍵保管などの管理責任を負う立場にあった。2022年6月以降は支店長代理の職位にあった。
元行員は自身の立場を利用して、予備の鍵を不正に利用した。封緘された封筒を開けてスペアキーを持ち出し、貸金庫を無断で開けて現金等の資産を窃取した。使用後は鍵を封筒に戻し再度糊付けした。奪った現金などは、主に外国為替証拠金(FX)取引などにつぎ込んだという。
警察による任意の取り調べに対して、元行員は2013年にFX取引や競馬で700万円以上の損失を出し、民事再生手続きを受けたと明らかにした。その1年後、同行員は再びFX取引を開始したようだ。取引金額を増やした取引などを行ったこともあり、想定外に損失は増え行き詰まったとみられる。消費者金融への債務返済のため、貸金庫にあった顧客の現金やゴールドを盗むようになったとみられる。
なぜ三菱UFJは防げなかったのか
元行員は、貸金庫の利用者の訪問パターンをつぶさに確認し、来店日時などを予測した。スマホや手書きメモなどで貸金庫内の状況も記録していたという。顧客の訪問タイミングなどに合わせ、窃取した顧客の資産を補填するために、他の貸金庫からも現金などを奪った。想定外の顧客訪問時には、貸金庫システムの電源を切り故障を装うなどして発覚を回避した。
三菱UFJ銀行が貸金庫からの窃盗を防げなかったのは、不正を未然に防ぐ体制や仕組みを確立できなかったためだ。一般的に、銀行は日々の現金繰り確認をはじめ、業務運営を一人ではなく複数で行う。二重、三重に客観的チェック体制を整備して銀行は良識、常識はもとより、法令や社内規定の遵守に基づいた業務運営を徹底してきたはずだった。
貸金庫の業務であれば、スペアキーを管理する封筒に割り印を押す際、顧客、担当する複数の行員の押印が必要であるはずだ。システムの運営と管理に関して、特定の行員一人だけが管理できる立場にあることも、一般的に考えて許容できるものではない。デジタル化の時代、システムを特定個人が自分の判断で切ることは考えられない。