「部下の目を見れば、隠し事をしているかわかる」
しかし、三菱UFJ銀行では不正を防ぐ制度が機能していなかった。管理手続きの不備が考えられる。過去、三菱UFJ銀行では、貸金庫業務で不正がなかったという。組織全体でスペアキー悪用による、不正リスクの認識は不足していたのかもしれない。貸金庫の開閉記録などのルールは確立されておらず、業務運営体制は不十分だった。
また、牽制・モニタリングの体制も不十分だった。練馬支店では、営業課の経験が長かった元行員の主導で業務分担が固定化していたようだ。貸金庫の業務は、問題を起こした元行員任せになっていたのだろう。
銀行全体としてのモニタリング体制も十分ではなかった。銀行の子会社が予備鍵の管理状況を点検することになっていたが、具体的な方法は確立されていなかった。また、組織全体で「貸金庫に絡む不正のリスクは低い」との思い込みの影響も大きかっただろう。こうして4年半もの間、窃盗は放置された。
その他にも、行員の身上調査を定期的に行っていたかなど、潜在的なリスクを把握する取り組みを徹底したか否か、検証されるべき点は多いだろう。銀行OBによると、「部下の目を見れば、隠し事をしているかわかることは多い」と話していた。
超低金利で貸金庫を利用する人が増えたか
1990年初めのバブル崩壊後、複数の銀行が合併することで三菱UFJ銀行は国内最大手の地位を手に入れた。複数の銀行が合併した結果、組織の隅々にまでコンプライアンスを徹底することが難しかったのかもしれない。
銀行ビジネス根幹には、人々の信用がある。強盗、紛失などから資産を守るために、わたしたちは銀行にお金を預ければ安心と考える。信用を支えに銀行は預金を集める。資金需要者の信用力を審査して融資などを行い銀行業務が成立する。それは、資本主義経済の成長を支える重要なファクターだ。
信用があるからこそ、わが国で貸金庫を利用する人は多い。2016年に日本銀行がマイナス金利を導入したことは、すでに低かった金利を一段と押し下げることになった。ATMで預け入れることのできる金額にも限度がある。金利が非常に低い状況下、貸金庫にお金を預けようとする人は増えたとの見方もある。