アメリカのZ世代を中心に、自身の内面を深く掘り下げる「シャドウワーク」が静かな広がりを見せている。占星術研究家の鏡リュウジさんは「僕は星占いをクリエイティブで積極的な手段として日本に紹介してきたが、シャドウワークという新潮流も、その流れの中にあるムーブメントではないか」という──。

報酬のない影の仕事……ではない、もう1つの「シャドウワーク」

「鏡さん、『シャドウワーク』についての海外の書籍の版権を取ったんですが、日本語に翻訳してみませんか?」

翻訳書を中心に何冊ものベストセラーを手掛けてきた編集者S氏から連絡があった。一瞬、僕は戸惑った。

「え? シャドウワーク? それって、社会学の方のほうが適任じゃないですか? 僕じゃ不相応ですよ」

そう、〈シャドウワーク〉と聞いて、すぐに僕の頭に浮かんだのはオーストリアの社会思想家、イヴァン・イリイチが提唱した概念のほうだった。

主婦の家事労働などが代表的な例だが、この世には「生産的」な経済活動を陰で支えている、多くの収入に結びつかない仕事がたくさん存在している。冷静に見ればそうした「影の労働」力を搾取さくしゅすることによってこの社会は回っている──。

イリイチは、「シャドウワーク」という概念によってそのことを可視化した。僕も学生時代に、イリイチの本を読んだものだ。

新年の抱負2025
写真=iStock.com/LanaSweet
※写真はイメージです

アメリカの若者がハマる内観的自己啓発

しかし、一介の占星術家であり、大学院でも学んだのは社会学ならぬ宗教学である僕には、シャドウワークというテーマは分野違いだ。

戸惑う僕に、S氏はたたみかける。

「いやいや、鏡さん、そっちのシャドウワークじゃないんですよ。ご存じないですか? 最近、アメリカの若者の間で別の『シャドウワーク』がバズっているんですよ……」

電話越しに笑っているS氏の顔が目に浮かぶ。

聞けば、「こっちのけんと」ならぬこっちの「シャドウワーク」は、心理学者ユングの「シャドウ」に着想を得た、一種の内観的な自己啓発のことだという。これがTikTokを中心にアメリカでバズっている。

▼書籍のインスタ始めました 
@president_publishing
セブン‐イレブン限定書籍や書店向け書籍などの自社出版物、書店やイベント等の最新情報を随時更新しています。