ようやく見えてきBSD予想

ところで皆さんは、楕円曲線の有理点の個数なんて、ちょっと頑張ればすぐわかるんだろうって思っていませんか? 実はこれ、むちゃくちゃ難しいんです。

例えば3セットの楕円曲線が初めて見つかったのは1938年、4セットの楕円曲線が見つかったのは1945年のことでした。5セットの楕円曲線は、なんと1986年まで発見できませんでした。楕円曲線上の有理点の問題が一筋縄ではいかない難問であることは、こんなところからも見えてきます。

楕円曲線の方程式が指定されていても、その無限個の有理点のグループが何セットあるのか、方程式から簡単に計算する手段はまったくなかったのです。

そろそろ、BSD予想とはどんな問題なのか、うっすら見えてきたのではないでしょうか? そう、この予想は、楕円曲線上の有理点の個数の計算方法に挑む問題なのです。

英名門大の2人が行った画期的な手法

1950年代半ば、イギリスのケンブリッジ大学に、純粋数学で名を挙げたいと燃えていた2人の数学者がいました。その2人が既に紹介したバーチと、スウィンナートン=ダイアー。後にBSDとして知られる数学者のコンビです。

数学者のサー・ヘンリー・ピーター・フランシス・スウィナートン・ダイアー
数学者のスウィンナートン=ダイアー(写真=Renate Schmid/CC-BY-SA-2.0-DE/Wikimedia Commons

楕円曲線上の有理点の謎、つまり

未解決問題
楕円曲線の方程式が与えられたとき、無限個の有理点のグループが何セットあるかを、どうすれば決定できるのか?

という問題は、当時から超難問として恐れられていました。しかし、BSDの2人は、それまでにはなかった画期的な方法で、このように計算できるに違いない! という予想を打ち立てたのです!

NHK「笑わない数学」制作班編『笑わない数学2』(KADOKAWA)
NHK「笑わない数学」制作班編『笑わない数学2』(KADOKAWA)

この問題に挑むにあたって、BSDの2人が選んだ道具は、当時、まだ登場して間もなかったコンピュータでした。コンピュータを使った膨大な数値計算から、楕円曲線上の有理点の謎に迫ろうと考えたのです。

BSDの2人は、さまざまな楕円曲線についての基本的な情報を、コンピュータで地道に計算することから始めました。そして、得られたデータをさらにコンピュータでまとめ、結果をグラフに記入し続けたのです。

実に6年もの時間をかけて計算結果をまとめた結果、2人はそのグラフの傾きとして、無限個の有理点のグループが何セットあるかが読み取れそうだと気づきます。誰も想像もしなかった、驚きの手法でした。

【図表13】BSD予想とは⑬

2人の予想を数学の言葉で書くと、こうなります。

【図表14】BSD予想とは⑭

皆さん! BSD予想にやっとたどり着きました! 今、皆さんは数学の、ひとつの最先端に立っています。そんな感覚を少しでももってもらえたら嬉しいです。

最後に、BSD予想の意義について、マーカス・デュ・ソートイ博士は次のように言います。

「BSDの2人が、楕円曲線上の有理点の謎が計算できる可能性を示したことは、大きな驚きでした。数学者たちが2000年も行き詰っていた問題に、まったく新しい視点を与えたのですから。数論において、実に革命的な瞬間でした」

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