図形上にある「特別な点」を探す旅
BSD予想と比べたらとても簡単な問題を何問か考えてみましょう。
方程式x²+y²=2で表される円周上には、座標の値がともに整数である点はいくつあるか。
2つの座標の値がともに整数である点を「整点」と呼びます。方程式x²+y²=2が表す円周の図をよく見てみると、どうも
(x,y)=(1,1)、(-1,1)、(-1,-1)、(1,-1)
の4個の整点がありそうです。
実際に計算してみると、
・1²+1²=2……OK!
・(-1)²+1²=2……OK!
・(-1)²+(-1)²=2……OK!
・1²+(-1)²=2……OK!
となり、この4点は円x²+y²=2の上にあります。
そして、x²+y²=2を満たす整数の組(x,y)は、この4つしかないこともわかります。
では、次の問題はどうでしょうか?
方程式x²+y²=2で表される円周上には、座標の値がともに有理数である点はいくつあるか。
問題文は、先のものとよく似ていますね。ただ一カ所だけ、「座標がともに整数」のところが「座標がともに有理数」に変わっています。整点と同じように、2つの座標の値がともに有理数である点を「有理点」と呼びます。この問題は、どう考えたらいいでしょうか?
まず、整点A(1,1)は有理点の1つです。実は、この点を通り、傾きが有理数である直線Lを考えると、この直線Lと円周x²+y²=2の交点は必ず有理点になります。さらに、傾きが有理数である直線は無限個あることがわかっていますので、グラフ上の座標が有理数になる点もまた無限個ある、というわけなんです。
ある図形の上にある有理点を(すべて)見つけよ、という問題は「有理点を求める問題」と呼ばれています。
古代ギリシャ時代から天才たちが夢中になった
……なんだか退屈そうな問題だな、って? 確かに、そう見えるかもしれません。
でも実は、この「有理点を求める問題」は、古代ギリシャの時代に誕生して以降、いろいろな方程式の整数解に挑んだフェルマーや、「笑わない数学」の常連中の常連であるオイラーやガウスなど、数々の天才たちが夢中になって取り組んだ、数学における一大テーマなんです!
数学史に詳しいマーカス・デュ・ソートイ博士は、有理点を求める問題の重要性をこう語ります。
「私たち数学者は、現在に至るまで2000年もの間、有理点を求める問題に夢中になってきました。有理点の問題は、決して何かの役に立つわけではないものの、数学の新しいアイデアをもたらす源となってきたのです。」
みなさん、グラフ上の有理点を求めるという、なんだか退屈にも見える問題が意外に大事なのかもということ、なんとなく感じていただけましたか?