名前の由来は火星

ちなみに「ブルーノ」という芸名は幼少期に似ていたプロレスラー、ブルーノ・サンマルチノから。そしてデビューが決まりレーベルとの契約を交わす際、ヘルナンデスという苗字から、ラテン・ポップの歌い手として売り出されようとしたことに難色を示した本人が、「地球の範疇に収まらないMars(火星)」という意味を込めて「マーズ」と名乗った。

Saku Yanagawa『どうなってるの、アメリカ!』(大和書房)
Saku Yanagawa『どうなってるの、アメリカ!』(大和書房)

近年の「黒い」音楽性に対して、カルチュラル・アプロプリエーション批判が向けられることも少なくないブルーノ・マーズ。しかし、そうした批判にこそ、ブルーノ・マーズの芸名に込められた「願い」とともに返答するのがフェアであろう。

アメリカの帝国主義の歴史を体現する存在の「アジア人」ブルーノ・マーズが真似る「白い」エルヴィスという存在。そして「アジア人」によって表現されるブラック・ミュージックとそれにまつわる批判的文脈。

アメリカという国がたどった搾取と侵略の歴史、そして混ざり合わさった文化と議論の先に存在するブルーノ・マーズという稀代のスター。

もはや地球という枠に収まりきらないという願いが込められたブルーノ・マーズというポップスターは、それでも「われわれアジア系の」ミュージシャンなのだ、と改めて感じ入る。

(初公開日:2024年10月26日)

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