予想が次々と裏切られる面白さ

映像の種を与えられた聞き手は、スーパーの店内を歩く中年ぐらいのご婦人の後ろ姿を想像し、頭の中でポンッとその肩を叩いたことでしょう。相づちでそれを確認したうえで、会話をさらに進めましょう。

「その人が振り返ったんだけど」

この話の展開なら、誰もが「きっと人違いだな。振り返った人が知らないおばさんで、ばつが悪かったという話かな?」というストーリーを予想します。

そこで聞き手は、知らないおばさんがこちらを振り向く映像を描きつつ、話の続きを待っています。

そこへやってくるのは、まったく予想していない展開です。

「知らないおじさんだったんだ」

え、「おじさん」? 聞き手は慌てて、映像の中のおばさんをおじさんに切り替えます。そのチグハグさがおかしくて、笑いになるのです。

さらに追い打ちをかけるのが、「パンチパーマ」「うちの母親、男みたい」「口の周りにヒゲ」という言葉。

聞き手がそれまで思い描いていた「話し手の母親」に似つかわしい常識的なおばさん像は、どんどん覆されていきます。

いかにも「おじさん」というパーツが一つずつ浮かび、次々と映像が差し替えられていくわけです。

ちなみに、「口の周りにヒゲも生えているし」で狙い通りの笑いがとれたら、そのあとは言葉を区切らなくても大丈夫。あくまで笑いをとりたい大事なところだけ、コミュニケーションブリッジの話し方を使えばいいのです。

笑いのセンスを高めるお笑い番組の見方

これまで笑いとは無縁だった人にとって、はじめから笑いをとりにいくような話術はむずかしいものです。

野口敏『どんな人とも楽しく会話が続く話し方のルール』(三笠書房)
野口敏『どんな人とも楽しく会話が続く話し方のルール』(三笠書房)

しかし、言葉を短く区切って、間をとり、聞き手の相づちを待って次の言葉を伝えるというコミュニケーションブリッジの話し方なら、できるのではないでしょうか。

言葉の区切り方、間のとり方などから練習をはじめてみましょう。そのうち、思ってもいないところで笑いがとれるようになることでしょう。

この話し方に慣れていない人は違和感を持つかもしれません。しかし本当に話がうまい人は、言葉を短く区切って、間をとり、相手をよく見て相づちを待ち、ゆっくり話を前に進めます。

テレビで人気のお笑い芸人を観察すれば、実はこのテクニックを用いていることがわかるはずです。それを意識しつつお笑い番組を見れば、笑いのセンスも高まるでしょう。

笑いはまさに想像力からの贈り物。一つのイメージを相手に想像させ、それをオチで覆す。予想が覆ることで笑いが起こり、その驚きがまた脳に新鮮さを感じさせるのです。これは大きなリラックス効果をもたらします。

さらにお互いが同じ映像の中で遊び、一緒に笑うと、映像と気持ちを共有することになります。この二つの共有から、大きな親しみが生まれます。

だから面白い人は、一緒にいて居心地がいいのでしょう。

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