きめこまやかな筆致で勇気と元気をくれる
小説で重要なのは読者にリアリティを感じさせる力です。盛田隆二は「盛田リアリズム」と呼ばれる、細かなディテール描写がすぐれた作家です。『二人静』は端的にいえば、大人の男女の恋愛小説です。男は父親を介護するサラリーマン。女は、男の父親を担当する介護士。彼女には言葉を発せない娘がいて、別れた夫の暴力に悩まされている。男女はそれぞれに複雑な事情を抱えている。それだけを追うと、暗い小説だなと思うのですが、そうはならない。読むうちに、ふたりの問題が他人事ではなく、自分の問題として迫ってくるのです。彼らは問題に直面し、ひとつひとつ解決するために動いていく。読者に「自分がこういう問題に直面したら、こうやっていこう」と思わせる元気を与えてくれるんですね。
『スコーレNo.4』も、ヒロインの成長を身近に感じられる小説です。「スコーレ」とはスクールの語源となったギリシャ語ですが、真理探究のための空間的場所を意味します。本書は、家族、恋愛、仕事、結婚の4つのスコーレの物語です。ヒロインは就職しますが、これがほんとうにやりたい仕事だったのだろうかと悩んでいます。それでも、すこしずつ学んでいく。この本のメッセージは「いまは遠回りしているように思えても、その日々はけっして無駄ではない」「いまやっていることは必ずどこかに続く」ということ。ようするに「人生捨てたもんじゃない」。透明な文体でつづられた美しい小説です。
小説の力とは、「ふと、立ち止まる」ことなのかもしれません。人生の問題をすべて解決してくれるわけではないけれど、次へと向かうために背中を押してくれる、そんな力があるのではないでしょうか。