人生とは、生きるとは悩み、考え、自答する

『流星ワゴン』も小説の力を感じさせます。生きる気力を失っているリストラにあったサラリーマンが、ある夜、ふしぎなワゴン車に乗り込む。そして「人生で一番大切な場所」へと連れていかれ、さまざまな「過去」の場所に再び立ち会う。そこで浮気する妻、ひきこもりの息子、横暴ゆえに嫌ってきた父親に会い、心のうちに触れていく。現実的には崩壊している家庭ですが、家族とは何かを非常に考えさせますね。過ぎ去った時間をやり直すことはできません。けれどささやかな変化の兆しが感じられる結末も見事です。重松清のベストワンだと思います。

『遠まわりして、遊びに行こう』は、子どものころの遊びの楽しさをあざやかに思い出させてくれます。「目的地に行くことが遊びではなく、寄り道をしたり、遠回りしたりすること自体が遊び」だった。大人になって結果だけを求めてしまっていたと気づきます。読書もそうですね。よい本に出合うためには遠回りもするでしょう。それこそが本の豊かさではないでしょうか。

『晴天の迷いクジラ』は、それぞれに行き場を失った24歳の青年、48歳の女社長、16歳の少女が、ふとしたことから出会い、入り江に迷い込んだクジラを見にいくというストーリーです。クジラを見たからといって、3人の問題は解決しないことは読者もわかる。けれど、読むうちにどこか救われていく気持ちになる。なぜなのか。それはクジラを見つめる3人にそれぞれ、隣に寄り添うひとがいるからです。「ひとりでは何も解決できず、何も変わらないけれど、誰かがかぎりなく近くにいることによって救われる〈心〉がある」と語りかけているようです。3人は少しだけ軽くなって、もとの居場所に帰っていったはずです。

本も読者の隣にいる「誰か」かもしれません。(文中敬称略)