國中教授のグループがイオンエンジンをオフにしてから、「はやぶさ」は2週間かけてイトカワに接近した。

宇宙探査工学研究系教授 久保田 孝氏

研究者たちの前に姿を現したイトカワは事前の予想を見事に裏切っていた。大きさは約500メートル。表面は岩だらけで、着陸に適した平坦な場所がほとんど見つからない。

この頃、久保田孝・宇宙探査工学研究系教授は緊張の最中にあった。数日前、彼の所属する自律航法誘導グループは、イオンエンジングループから大きなカードを渡されていた。「次はお前たちだぞ」というメッセージの込められた「バトン」の意味があったという。

「はやぶさ」との通信は、往復で約30分以上もの時間がかかる。よってイトカワへの着陸に際して、探査機を地球から操縦することはできない。そこで使われるのが自律航法誘導で、イトカワから500メートル圏内に入った「はやぶさ」は、自らの位置を自ら判断して着陸する仕組みになっていた。

「でも、イトカワの姿を見た時は困りました。いままでに見た小惑星と全く違った」

どこに降りようか? それが彼らの第一声だったという。

「我々が想定していた小惑星の大きさは1キロから10キロ。それが500メートルしかなかった。着陸に適した平らな場所も、いままでの小惑星探査の知見から考えれば100メートルはあるはずだったんです。それがイトカワには約30メートルしかない。でも、諦めて帰るわけにはいきません。必死でした」

自律航法誘導グループはイトカワの分析を続け、「ミューゼスの海」と名付けた場所を着陸地に選ぶ。3度の降下試験の後、ターゲットマーカーを発射。1度目の着陸を試みた後(このとき「はやぶさ」はイトカワの表面に横たわっていた)、05年11月26日の2度目の着陸には成功し、運用室は喜びに包まれた。このときサンプル採取も行われている。