イーロン・マスクが「補助金廃止」を支持する理由

トランプ次期政権と米議会共和党のパワーバランスや米世論から考えると、インフレ抑制法は共和党州の雇用や経済を守るためにEV・バッテリー企業向け補助金が残される一方で、消費者向けのEV購入補助金は廃止される可能性が高いのではないだろうか。

事実、購入補助金廃止で悪影響を受けることが確実なテスラの総帥であるイーロン・マスク氏は、7月のアナリスト向けカンファレンスで補助金廃止への支持を明言し、その理由として「EV競合に壊滅的な打撃となるから」と語った。

つまり、こういうことだ。テスラは2023年にEV需要が落ち込み始めた際に、大幅な値引きを仕掛けて、自社が喧伝していた「不可逆的なEVシフト」論にまんまと乗せられたGMやフォード、独メルセデスベンツや韓国ヒョンデなどを値引き競争に引きずり込んだ。

EV参入企業が青ざめる“ホラーな筋書き”

これにより、EVだけでもうけが出せていたテスラの損失は最低限に抑えられる一方で、EVによる利益体制を構築できていなかった競合各社は勝てる見込みのない値下げ競争で疲弊し、EV事業の赤字幅が拡大していった。

そこに、マスク氏が再選を強力に後押ししたトランプ氏が大統領職への返り咲きを決め、共和党支配下の米議会がEV購入補助金を廃止する。

マスク氏は新設の「政府効率化省(別名ドージ省)」のトップの一人として入閣して連邦政府予算のムダに大ナタを振るうことが決まっている。補助金廃止で功名を立てられるばかりか、テスラのライバルの多くは耐えられなくなり、EV事業を縮小するか撤退する。

こうしてEV市場で生き残ったテスラが独占的な旨味を享受する、というホラーな筋書きだ。

この筋書きには、さらに続きがある…

政商マスク氏のえげつなさは、値下げ競争や補助金廃止で競合を蹴落とすことにとどまらない。