アメリカの覇権を脅かすものとして排除
しかし、この可能性もアメリカの激しい攻撃で排除されるに至っている。文部省と通産省が教育用パソコンのOSとして採用しようとし、多くの日本メーカーも賛同したところ、アメリカの通商代表部が貿易交渉で「貿易障壁リスト」に入れてきたからである。
このOSを内装したパソコンがそれ以前に一台も輸出されたことがなく、その技術はアメリカ企業にも無料で公開されているにもかかわらず、である。
ここでこの「貿易障壁リスト」に掲げられたのは、当時争点となっていた半導体、スパコンとこのBTRONの2品目であったから、次世代の技術覇権にとって重要なものはすべて自主開発を許さないという姿勢をアメリカは貫いたことになる。
もっと言うと、この時点でももし次期支援戦闘機開発の方式が決まっていなければ「貿易障壁リスト」は4品目だったということになる。
OS競争に日本が参画していたかもしれない
「アメリカのものを買おうとしないのは不公正貿易だ」とのメチャクチャな論理である。実のところ、約1年後にBTRONはこの「貿易障壁リスト」から外されることになる。
上で述べたような論理をさすがに通せなかったからとも言えるが、それよりも、その1年の間にすでに教育用パソコンや日本企業の一般パソコンへの採用が見送られたことが大きい。「採用阻止」が目的だったので、それができればもうリストに要らないという話である。
確かに、Windowsが圧倒している現在の状況からすれば、それ以外のOSの採用が簡単でなかったのは事実である。しかし、上でも見たように、特定分野に強みを持ったMacは生き残っているし、今後中国の独自OSが広まって群雄割拠となった場合に非常に不利となる。少なくとも日本がパソコンのコア技術で世界1、2位を争うことになる機会を強制的に奪われたことになる。
現在のように弱体化した日本産業の現状からはとても想像されないかもしれないが、1980年代の日本産業にはそういう現実的選択があり得たというのが重要である。