保身のための隠蔽、嘘、口裏合わせ…

院内調査委の報告書には、幼い男児患者が、術後の発熱や下痢で苦しんでいても、何の処置もしない状況がつぶさに報告されていた。

下痢や発熱により大量に水分が失われているのに点滴指示が出されていなかったこと、高カリウム血症であることの情報共有がされていなかったこと、心停止45分後にやっと蘇生処置が開始されたこと、そして付き添うご家族が容体の悪化を心配する言葉が完全に無視された様子など、基礎的医療処置がなされなかったために失われた命だったことが明確に記載されている。神奈川県小児医療の最後の砦として、全くふさわしくない医療対応だ。

そして、こども医療センター病院長や幹部職員、機構コンプライアンス室長たちはこの報告書を公表したくないために存在を隠蔽し、握りつぶそうとし、報告書を公表する記者会見の場でも、保身のために口裏を合わせて嘘を重ねた。反省のない、卑怯な対応である。

こういう人たちを幹部職員として責任ある立場に置く機構本部の医療倫理とはどんなものなのか? 私は非常に強い憤りを感じ、その後も追及を続けた。

その結果、2023年12月には、病院長らの降格処分と懲戒処分などが公表された。年明けて2024年2月、こども医療センターと機構本部は「医療安全推進体制に係る外部調査委員会」からの厳しい指摘を受けた。基本的な医療安全対策がなされていないとして、42もの提言を受けたのだ。

新理事長による「大改革」に期待

火中の栗を拾う形で24年4月、新理事長に就任したのは、神奈川県のコロナ対策を主導してきた阿南英明医師である。阿南医師は、救急医療・災害医療の専門家だ。現状の機構とこども医療センターにはふさわしいリーダーなのかもしれない。

こども医療センターでは2024年2月にも、10代の患者が死亡する医療事故が発生した。この事故では5月に記者会見を開き、調査委員会の調査終了後に結果を公表するとした。隠蔽体質が批判された前回の死亡事故と比べると、情報公開は進んでいるようにみえる。

現在、機構は医療安全推進体制の見直しを進めるため、これらの提言を基にアクションプラン(行動計画)を策定し、取り組んでいる。