男女とも平均寿命が80歳を超えたが、80代、90代の高齢者だけで生活していけるのか。家族社会学を専門とする春日キスヨさんは「高齢者になっても、夫がいつまでも妻に世話をしてもらえるものと思っているケースも多い。しかし、データを見ると、気力体力、そして認知能力の低下が著しく、80代後半から自分で買い物や料理をできる人は半数以下になってしまう」という――。

※本稿は、春日キスヨ『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

腕組みをしてソファに座っている高齢の夫婦
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老いても「妻に介護してもらえる」と信じて疑わない夫たち

ケア役割を妻が担う「性別役割分担」で生きてきた夫婦が圧倒的に多い、現在の超高齢世代の場合、夫が先に弱っても、妻が元気であれば、従来通りの生活を維持することも可能だろう。男性のなかには、「要介護になったら妻に介護してもらえる」と信じて疑わない人も多いくらいだ。

しかし、妻が夫より先に弱り、家事能力、ケア能力に支障をきたすようになった場合、どうなるか。自分ひとりの食事をつくるだけでも大変だが、夫婦2人分となると、もっと大変である。

妻が衰え弱っていくなか、そうした役割を、夫婦のどちらが、どのような形で、どの時点まで、担い続けるのか。その力を妻がいよいよ失ったとき、離れて住む子どもや支援機関に夫婦のどちらが支援を求めるのか。

どちらにもその力がなくなったとき、誰が夫婦を支援につなぐのか。それは要介護・要支援認定を申請し要介護認定を受け、「老老介護世帯」という社会的認知を受ける以前の、超高齢夫婦の生活問題だといえよう。

「老老介護」で夫が妻の世話をする場合、どうなるのか

しかし、現在まだ70代で、「元気だから大丈夫」「夫婦そろっているから大丈夫」と、親も子も、そして世間も思っているうちに、「最期まで自宅で暮らす」ことを望む人も多い団塊世代が、あっという間に超高齢期に達してしまう。

だとすると、在宅ひとり暮らしが増大する問題と同様、こうした超高齢期在宅夫婦2人暮らしの増大も、もっと関心を持たれてもいいのではないか。

そこで、こうした問題をさらに考えるために、生活維持に関わる食事づくりや家事、外部との関係づくりといった女性のケア能力は、加齢とともに超高齢期にどう変化していくのか。それに応じて夫婦の役割関係は組み直されるのか、されないのか。組み直されない場合、どのような事態になっていくのか。これらについて、ひとり暮らし女性の場合と比較し考えながら見ていこう。