「ワァーッ! 私はじいさんに殺される」

【PJさん】「父は2022年に97歳で亡くなりました。母は現在95歳です。『ふたりそろって百まで生きたい』というのが希望だったんです。けど、希望といっても、それは父の希望で。母は『早く死にたいよー』と言っていました」

【春日】「それはどうしてですか?」

【PJさん】「理由はね、『じいさんに殺される!』と言っていました。しょっちゅう、母は『じいさんに殺される!』と言っていました」

【春日】「エッ、どうして、『じいさんに殺される』なのですか? お母さんはなぜ、そんなことを言われていたのですか?」

重ねる私の質問に対して、PJさんはこう続けた。

【PJさん】「母が全部、何もかもしなければならないでしょ。父が何にもしないから。そうはいっても、父も70代の頃まではマメに動いて、庭仕事などもよくしていたんです。でも、年齢とともに筋力が落ちて、動くのがしんどくなるじゃないですか。だから、あまり動かなくなる。

それで『おい、これ取れ』『あれ取れ』『眼鏡持ってこい』『新聞持ってこい』から始まって、母がズーッと一日中、動かされるわけです。狭い家とはいえ、結局、母は自分の時間がなくなり、ウロウロ、ウロウロ。

そのなかでご飯もつくらなきゃいけない。そんなんで、トイレで父に聞こえんように『ワアーッ! 私はじいさんに殺される』と、叫んでいたんです」

周囲からは「仲のいい夫婦」だと思われていたが…

PJさんの母親は、耳の聞こえも悪く、2度の圧迫骨折で、何かにすがらないと立ち続けることができないほど腰が曲がり、痛みもあった。そんななかでの夫の世話と家事は、「死にたい」ほどの重労働だっただろう。

一方、父親も、まだ元気だった70代までは「マメに動いて」いた。しかし、80代半ばでの病気をきっかけに、自分でできることも億劫がり、その分、母親への指示・命令が増え、その負担がだんだん重くなっていったのだという。

PJさんが語ってくれた両親の生活史を、簡単に述べておこう。

父親は定年後、資格を買われ再就職、70歳まで働く。一方で、母親の方は、60代の半ばから4年ほど、共働きで3人の子どもを育てる娘を支援するため、娘家族と同居。その間、父親は自宅でひとり自炊暮らし。

父親71歳、母親69歳のとき、母親が娘家族との同居生活をやめ、二人暮らしに戻る。その後、80代半ばまでは、「二人で野菜づくりをし、買い物も一緒にシルバーカーを押して近くのスーパーに通い、地域の人から「仲がいいですねえ」と声をかけられるような生活。

だが、80代半ばに父親が「軽い心筋梗塞」にかかり、その後、他の病気にも。それをきっかけに父親の体力が「ガタッと弱る」。そのなかで妻に指示・命令して用を足す「あまり動かない」生活になっていく。

椅子に座っている老夫婦
写真=iStock.com/eyesfoto
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