さらに販売の現場では、顧客の家族構成や給与水準を考え、グレードの低いクルマの購入を提案していることもよくあるという。顧客目線での考えつくされた内装、システムづくりに加え、自分たちの利益をも度外視した提案があれば顧客が信頼するのもうなずける。そんな顧客満足を自発的に追求できる従業員はどのようにして生まれるのだろうか。

同社入社以来、採用・教育を担当する大原光秦氏(現在はビスタワークス研究所代表)。「日本型経営」の研究を続ける。

他のカーディーラーでは、ノルマ達成のため血眼で家庭へ飛び込み営業し、ショールームを訪れた顧客で脈ありと見るなり自宅まで追いかけ回す、といったガツガツした手法も決して珍しくない。値引きをエサに顧客をおびき寄せ、無知につけ込んで高価なオプション装備を買わせることもある。業績は、ひとえに営業マン個人のコネと根性で成り立っており、営業マン同士の連携や情報の共有など、そもそもありえない世界なのだ。

人材開発を手がけるビスタワークス研究所代表・大原光秦(2007年までネッツ南国人材開発室長)によれば、ネッツ南国の従業員の人格に等しく備わっているのが「(顧客を含む)自分以外の人を少しでも幸せにしたい」という人生・労働哲学だという。大原はこう続ける。

「東日本大地震が起きたとき、私は出張で仙台にいて一時的に避難所暮らしをしました。

印象に残ったのは、被災地の方々はお互い助けあい、『自分より困っている人優先』のマインドだったのに対して、その直後に行った大阪では違法駐車したのに『あいつも停めてるやないか』とエゴ丸出しの人がいたこと。ある学者は『人間は逆境の中では優れた生き物だが、富や栄光を手に入れると、目的を失った生き物になってしまう』と言っています。

当社の従業員には、マニュアルはありませんし、上司は何も教えません。書類のつくり方など最低限のことだけ伝えて、販売の最前線へ送ります。そうすると、お客様のちょっとしたことに気づこうと自然に努力し、また同僚と連携しなくてはいけないというマインドができあがるのです」