さて、どこが問題なのだろうか。

会社概要によると、この会社の従業員数は10名である。そして、販管費明細書を見ると、年間の給与手当は387万3000円と記載されている。とすると、従業員1名あたり、1年間の給与手当が38万7300円しかないのだ。月給に直すと、3万2275円。この給料で人を雇うのはどう考えても無理だろう。

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ポイント

ただし、この10名というのは、あくまでも「従業員数」であって、「正社員数」ではない。従業員にはパートやアルバイトなどの非正規雇用者も含まれてくる。つまり、この会社にはほとんど正社員と呼べる人がおらず、家族や知人の名前だけを借りて形だけの給与を払い、従業員数を多くして会社の規模を大きく見せようとしているフシが感じ取れる。

そして、もっと大きな嘘がこの決算書類には隠れている。この「本店所在地」の渋谷区渋谷というのは、109なども近い、都心の渋谷区の中でも一等地だ。当然、そこに事務所を構えるとなると、かなりの家賃が必要になる。ここまで言うと、ちょっと数字力のある方なら、ピンとこられると思うが、敷金や地代家賃が、あまりにも低すぎるのである。そして地代家賃だが、販管費明細書を見ると、1年間で155万6000円と記載されている。つまり1カ月あたりの家賃は約13万円だ。渋谷という一等地に、月13万円足らずの家賃で10名のスタッフが仕事をすることができるような物件が、果たして存在するのだろうか。敷金は40万5000円だが、渋谷で事務所を借りればこの10倍はとられるだろう。

このように考えると、小さなワンルームマンションをオフィスと称して会社の登記だけを行い、実際には社長と妻、もしくは親族に近い人たちが自宅で小さなビジネスを立ち上げている――そんなイメージが浮かんでくる。より多くの融資を受けるため、会社を大きく見せる粉飾トリックが使われているのだ。

答え【NO】
公認会計士 山田真哉
1976年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、一般企業を経て、公認会計士2次試験に合格。現在、公認会計士山田真哉事務所所長。『食い逃げされてもバイトは雇うな』などベストセラー著書多数。
(構成=鈴木雅光 撮影=澁谷高晴)
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