相場の2倍の原価率、それでも勝算があった

僕には構想なんて大それたものはないけれど、ひらめきがいつも駆け巡っているんです。スープも前菜もなく、いきなり分厚いステーキが湯気を立てて目の前に運ばれてくる。値段を気にせず300グラムでも500グラムでも食べられる。売価に対する食材の原価率が平均3割といわれる業界ですが、僕は原価率が6割になろうと7割になろうと経営が成り立つという勝算があった。やってみると、立ち食い業態なので回転率が高く、リピート客も数多くついて、思った以上の利益がありました。

一瀬邦夫(いちのせ・くにお)
一瀬邦夫(いちのせ・くにお)
ペッパーフードサービス元代表取締役社長。1942年生まれ。94年に51歳で「ペッパーランチ」のFCを展開。2013年に71歳で「いきなり!ステーキ」を創業。22年8月辞任。23年11月から和牛ステーキ専門店「和邦」オーナーシェフ

中古の本やCDの売買チェーンを築いた「ブックオフ」創業者の坂本孝さんと懇意にしていました。彼が始めた「俺のイタリアン」では、いきなりメイン料理が出てきて、お客は立ち食いで楽しんでいる。それを見たとき、いきなりひらめいたといっても過言ではないですね。革命を起こそうと思った。

急速な出店拡大で6年で国内500店を超えるも、その後は半減

2013年12月、71歳にして東京・銀座4丁目に、300グラムのステーキにライスを添えて1000円で食べられる「いきなり!ステーキ」の第1号店をオープンしました。とにかく、いきなりステーキが出てきて腹いっぱい食べる体験をしていただきたい。思ったとおりでした。お客が列をなして、とんとん拍子に売り上げが伸びた。

いきなりステーキ銀座4丁目店=2021年3月26日、東京都中央区
写真=時事通信フォト
いきなりステーキ銀座4丁目店=2021年3月26日、東京都中央区

航空会社のCAの女性が仕事で成田空港から帰ってきた直後といって、職場で「1人でも行ける店」と噂になっているとワイングラスを傾けながらハイヒールですっと立ってステーキを食べていらした。あのときはうれしかったな。続いて、銀座の4丁目、6丁目と、空き店舗の情報があって、居抜き出店で改装費を極力抑え、大急ぎでオープンに漕ぎ着けたりしていました。

【図表】急速な出店拡大でピーク時は約500店に

急速な出店拡大で6年で国内500店を超えました。米ニューヨークにも出店し、18年に僕は76歳で日本の外食産業として初めて米ナスダック市場への上場を果たしました。でも、そのような絶頂のときこそ、本当の力が試されるのでしょう。日本の東北や山陰地方など、人口の少ない地方でセブン‐イレブンやスターバックスが新規出店されると最初は物珍しくて行列ができるけれど、すぐに落ち着く。同じようなことがいきなりステーキ各店でも起こりました。

東京都内でさえ自社店舗競合が明らかになるほど出店してはいけないところに出してしまい、その店舗が重荷になって会社全体が不採算になるという悪循環に陥っていくわけです。赤字決算が続いたことの責任を取って、22年8月に社長を退きました。いきなりステーキの店舗は半減していくことになります。