都合のいいこのタイミングでの「解散総選挙」

一方の斎藤氏は国政の動きも忘れていなかった。

自民党総裁選で誰が首相になってもすぐに衆院解散、総選挙で国民の信を問うのは間違いなかった。

だから、知事選を総選挙にぶつけるために、「失職」を選んだのである。

自民党総裁に選ばれた石破茂氏は9月30日、解散総選挙を10月27日(15日公示)に行うと表明した。兵庫県知事選が10月31日告示、11月17日投開票であるから、斎藤氏の目論見通り、知事選は総選挙と同時期に行われることになった。

となれば、自民党、維新ともに衆院各選挙区の候補擁立を急ぐのに必死で、独自の知事候補にどれだけ時間を割けるのか疑問は大きい。

簡単に候補を選ぶだけでは済まない。

1カ月半の短期間で、斎藤氏ほどの知名度がある候補を見つけるのはさらに難しい。

国会議事堂
写真=iStock.com/Mari05
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テレビに出続けて「いじめられ役」を印象付けた

この半年間、斎藤氏はテレビ、新聞に出ずっぱりだった。知名度で言えば、どんなタレントも斎藤氏にはかなわないかもしれない。

それだけではない。斎藤氏は何よりもメディアの使い方を熟知している。

不信任が決議された翌日の20日から、斎藤知事はNHKや地元の民放番組に相次いで生出演した。

すべてインタビュー番組であり、内容もほぼ同じである。

斎藤氏は、これまでの県政改革の実績をアピールするとともに、告発文書問題の対応は何ら法に触れず、適切だったことを強調した。

パワハラ疑惑について、「ハラスメントは当事者の受け止めもあるが、法律的にそれがどういう状況で、どういう背景でなったのか、パワハラ行為がいわゆる社会通念上、踏み越えたことなのかを客観的に認定されていくので、それはいろいろなケースがある」と否定してみせた。

亡くなった元西播磨県民局長については、「お亡くなりになられたことは本当に心から悲しいし、残念な思い。内部調査は初動も含めて議決方法と公益通報者保護法との関係でも、わたしはこれまでの対応はきちっとやってきた」などと知事対応の正当性を強調した。

また「なぜここまで知事の座に固執するのか」との問いには、「自分がいままでやってきた改革、これまでの20年間の県政、既得権とかしがらみとかそういったことから抜け出した、県民の皆さんの政策をしていきたい。それを何とか続けたいというつもりで、辞職をするつもりはなかった」と答えている。

県議会が一丸となって“いじめている”姿を何度も見ている視聴者には、各局テレビのインタビューを通して、毅然とした斎藤氏の姿がリーダーとして好ましく映ったはずだ。

テレビの生インタビューは、着せられた汚名をそそぐ絶好の機会となってしまった。選挙戦を想定した斎藤氏のしたたかな戦略が根底に見えた。