義父の死

ところが、結婚した義弟の勤務地は四国。

そのため義両親と義弟夫婦との同居は、義実家を義弟夫婦のために建て始めた時点でも、「転勤願を出すか、ダメだったら転職すればいい」くらいの曖昧なものだった。

義実家を建て替え始めてから10カ月後、67歳だった義父は、「脳の中の大きな動脈瘤が、いつ破裂してもおかしくない危険な状態」と言われて手術を受けた。

脳のMRA
写真=iStock.com/Tonpor Kasa
※写真はイメージです

手術は成功したものの、義父には手術後、後遺症で記憶障害が出る。だが1年でほぼ改善され、義両親も義弟も片岡さん夫婦もほっとした。

しかし、ほっとしたのも束の間、今度は義父に肺がんが見つかった。すぐに抗がん剤治療を始めたが、思うように効果が出ない。

この間に義弟夫婦は、

「父さんが脳の手術をしたのは失敗だった」

「兄ちゃんの言う通りにしたからこうなった」

 

と義母の耳元で何度も囁いた。義妹と結婚してから、明らかに義弟の性格は変化していた。

がんが広がるスピードは想像より速く、義父は1996年、69歳で亡くなった。

義実家を義弟名義に

それまで義父名義だった土地や建物の相続の話になったとき、義母は「全て義弟名義にする」と言った。

「私が死んだあと、また変えるのは二度手間やから、今からしといたらいいんや」

と平然としている。

しかし片岡さんの夫は、

「危険だ。母さんも住むのだから、自分の名義も入れといたほうが良い」と説得したが、聞き入れようとしない。

片岡さんがふと義母の隣を見ると、義妹が怖い顔をして義母を睨んでいる。埒が開かないと思った夫は、今度は義妹に、

「全部相続すると税金がかかるよ」

と話すが、義妹は

「税金は全部払います、大丈夫です」

と揺るがない。

結局土地も家屋も義弟が相続し、義弟名義にすることに決まった。相続の書類が出来上がると、義弟夫婦はまた四国へ帰って行った。