年間30万本も放映されているテレビ通販番組はローカル局に多い。だがここ10年、そこでの物販の売り上げは伸び悩んでいる。そのためテレビ局内でも窓際扱いだったが、次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「3年前にあるDXの出現によってテレビ局の工夫次第で、広告収入激減の窮地を物販で増収増益することが可能になった」という――。
テレビ通販番組の写真
通販番組のイメージ

テレビ通販番組は1年間に何本流れているかご存じだろうか。

実は30万本近くある。その9割が29分番組で、トータル的に約15万時間(日数換算で6000日以上)という途方もなく膨大な量になります。

ただ、物販系のネット通販(EC)の売上高は過去10年で倍増している一方、テレビ通販の伸びは芳しくありません(経済産業省統計)。ところが近年、通販番組にイノベーションが起こり始めました。広告収入減が深刻なローカル民放には福音となる可能性があります。何が起こっているのか、深ぼりしてみました。

テレビ通販のこれまで

2013年に6兆円弱だったECの市場規模は、2022年に14兆円と倍以上に伸びました。物販系分野に占める割合は約1割となりました。

ところがテレビ通販は、あまり伸びていません。旧態依然たるやり方が最大の敗因でした。ネット通販事業者がテレビ通販に出るのは意外とリスクが大きいです。放送は短時間に多くの視聴者が見ます。発注を受け付けるコールセンターに何本の電話回線を用意すべきか、判断が難しかったのです。少なすぎるとパンクして利用者の不満につながります。多すぎると、過剰投資となり利益を圧迫します。

用意すべき在庫量の読みも容易ではありません。過剰だと損失が出かねません。少なすぎると商機を逸することになります。結果として、ECを始める事業者は次々に登場しましたが、新規のテレビ通販事業者は多くなかったし、始めたものの大半が撤退していたのです。

意外と多い視聴者

それでも通販番組の視聴者は固定ファンも多い。SNS上にも“つい見てしまう”タイプの人が少なくないことがわかります。

「酒飲みの最終形態は通販番組をさかなに飲み続ける」
「更年期からか、夜中に目が覚めちゃう。幸いXと通販番組で時間を紛らわしています(笑)」
「ホテル泊まるとだいたい通販番組みちゃうんだけどおもしろい」
「ふと目に飛び込んできた美顔器。通販番組で思わず買ってしまった」

放送は“偶然の出会い”メディアです。

ECの場合は、初めから意中のモノを買いたいと思ってアクセスする人が大半ですが、通販番組では何気なくテレビをつけたら放送していたので見てしまう人が少なくありません。しかも出演者のオーバーな口調に惹きつけられ、買う気がなかったのに衝動的に購入してしまったという人がいるのです。