改正放送法でネット業務が「必須業務」に位置付けられた
改正放送法の狙いは、NHKの番組を、放送で見る人とネットで見る人を公平に扱うことにあり、番組の内容も負担も「同一」にすることだ。
視聴者の視点からいえば、伝送路が電波でも通信ネットワークでもNHKの番組を見ることができる環境が法的に担保されたということができる。
主なポイントを整理してみると、
・ネット事業を「必須業務」とする
・ネット事業の範囲は、①同時配信、②見逃し配信、③番組関連情報の配信とする
・ネット事業の受信契約(ネット受信料)は、①受信料を払っている世帯は不要、②通信端末を持っているだけでは不要、③アプリなどでネット配信を見ようとする人にのみ義務づける
などだ。
もっとも、改正放送法が定めるのは、「必須業務」となるネット事業の骨格にすぎず、具体的な運用やサービスは、当事者のNHKが今後、詰めることになる。
早ければ9月下旬にも概要を公表する段取りで、その後、中期経営計画を改定し、ネット事業の収支を盛り込んだ25年度予算案を策定。予算案が25年の通常国会で承認されれば、晴れてサービス開始となる。
「公共放送」から「公共メディア」に生まれ変われるのか
テレビを持たないネット視聴者に向けて、ネット事業の詳細を明らかにすることは急がねばならない。
だが、「新生NHK」に真っ先に求められるのは、「ネット空間における『公共』とは何か」という大命題の回答を提示することではないだろうか。
放送法1条は「健全な民主主義の発達に資する」と明記し、15条でNHKは「公共の福祉」のために「あまねく全国で番組を提供すること」と規定されている。それは、放送がテレビという受信機と不可分に結びついていることを前提にしていたため、放送界においてのみ有効な「公共」といえる。
ところが、ネット空間は、限られたプレーヤーしかいない放送界とは違って、実に多くのさまざまな事業者が混在し、真偽不明の大量の情報が飛び交っている。巨大IT企業のプラットフォーマーによる情報寡占も進む。昨今は「インフォーメーション・ヘルス(情報的健康)」という新たな概念も語られるようになった。受信端末も、スマートフォンや、パソコン、
報道分野に限れば、内外の新聞社、民放局、ネット専業のニュースサイトなどがひしめき、信頼性の高い情報の発信を競っている。まさに、生き馬の目を抜くがごとし、である。
政権寄りの体質、経営委員会の番組干渉、ガバナンス欠如…
そんな情報空間で、一放送事業者のNHKが、放送界の「公共」を持ち込んで、どこまで存在感を放てるだろうか。ネット空間にふさわしい「公共」を確立できなければ、ネット住民はついてこないだろう。
稲葉会長は「NHKが、ネットの世界に、放送と同等の正確で信頼性の高い情報や価値を提供し、サービスの水準を高めていくことで、ネット上の情報の隔たりや偏りが修正されれば、情報空間の健全性は確保される」と胸を張った。