受信料改革はこれまで、さまざまな事例が研究されてきたが、以前にも本サイトで紹介したドイツの「放送負担金制度」が見直し論の有力な先例となるのではないか。受信機器をもっているかどうかにかかわらず、全世帯から一律に一定額を徴収する仕組みだ。
ある種の税金のように見えるが、ネット空間の「公共」を考えた時、もっとも矛盾が生じにくく、論理的に整合性が取りやすいとされる。
受信料問題は、NHK問題そのものとも言われるだけに、「新生NHK」にふさわしい仕組みを、ゼロベースで考えるタイミングにきている。
テレビ放送と同じ番組が見られない
もう一つ、大きな問題がある。
ネット事業が「必須業務」になるということは、ネット視聴における番組(コンテンツ)やサービスが放送と「同一」であることが最低条件でなければならないが、いずれもスタート時点では「同一」とは言えないのだ。
ネット事業は、基本的に現行の「NHK+(プラス)」を承継することになるとみられるので、そこをベースに検証してみる。
まずコンテンツ。ネット視聴者が見られるのは、地上放送(総合放送とEテレ)だけで、衛星放送(BS)は対象外だ。大リーグ中継など番組の権利処理が間に合わず、システムの準備も整わないことが理由に挙げられているようだが、除外した経緯には不透明感が漂う。総務省は「あまり間を置かず、視聴できるようになるはず」と楽観視するが、はたしてどうか。
肝心の地上放送も、すんなりとはいかない。キラーコンテンツの一つである高校野球などスポーツ番組を中心に、著作権や配信権の問題が処理できず、見られない番組が少なくない。ニュースでさえ、画面に「この番組は配信しておりません」という表示(いわゆるフタかぶせ)がしばしば出て、ストレスは溜まる一方だ。
「必須業務」のスタートまでに、権利処理を済ませて、放送と同じように見られるかどうか。かなり高いハードルに見受けられる。
「同一」のコンテンツを提供するという基本原則をまっとうしようとするなら、ネットで見られない番組を、放送でも見られないようにすればいいという議論もありうる。つまり、高校野球の中継などをやめてしまうという選択だ。しかし、視聴者の暴動が起きかねないだけに、さすがにNHKに決断する勇気はないだろう。
いずれにしても、これからネット視聴者を獲得して受信料収入を増やしていこうというなら、早急に対処しなくてはならない。
サービスが劣るのに受信料はテレビ放送と同じ
サービス面も、難題が多い。
通信ネットワークを利用する「ネット」は、放送より30秒程度のディレイ(遅れ)が生じている。大相撲のように短時間で勝負が決まるような場合、ネットで取り組みを観たときには結果がわかっているケースが少なくなく、シラけるばかりだ。
また、放送のように録画ができないという致命的な欠陥がある。