情緒不安定な父親とわがままな母親

ところが奈々さんが物心ついた時、すでに両親の仲は険悪だった。

「父は、何か気に入らないことがあると、大声でキレたり物にあたったりして、年に1〜2回、家の中で大暴れするんですが、一通り暴れた後は、一部始終を覚えていないんです。普段から両親は喧嘩が絶えず、父の怒鳴り声と母の金切り声を聞いて育ちました。幼い頃は、何が原因で喧嘩しているのか分かりませんでしたが、とにかく恐怖で、私は自分の部屋で布団にくるまって一人で泣いていました」

父親は職場では猫を被っていたようだが、家族でファミレスに行くと、「写真と違う」「量が少ない」など、客の立場を利用して高圧的な態度に出ることがしばしばあった。また、かかりつけの病院などでも、主治医に喧嘩を売り、何度か出禁になっているようだ。

「『お客様は神様』という言葉がありますが、これはあくまでも従業員側の心がけのセリフであって、お客側が言うのは違うと私は思っているのですが、父はお客の立場で『お客様は神様』だと本気で思っている節があり、『父は頭がおかしいんだな』と思います。父は『無理を通せば道理が引っ込む』を地で行くタイプなので、身内にとっては『手に負えない問題児』でした」

父親は自分のほうが立場的に下の場合、相手には腰が低く、優しく振る舞うが、客や患者という立場を得ると、それを笠に着て横暴を通そうとする「ハラスメント気質」があった。

「母は母で、ヒステリックで聞かん坊なところがありました。ど根性だけで生きていて、へこたれないタフな性格で、ブランド物のバッグなどを持っている割には堅実な考え方をするけれど、自分に甘いところがある人だと思います。私が風邪をひいて母にうつってしまったことが何度かあるのですが、その度に母はブチギレて変な絡み方をしてきました。そういう時、私は意味が分からなさすぎて思考がフリーズしてしまいます。結局、母の機嫌が良くなるまでは距離を置いて、放っておくことしかできませんでした」

母親は結婚前、ピアノ講師やピアノ奏者の仕事をしており、結婚後も働きに出たかったが、父親に「子どもが中学生になるまでは家にいてほしい」と言われ、許されなかったらしい。

「母によると、父は実は公務員の仕事に向いていなくて、ものすごくストレスを溜め込んで働いているから、ストレス発散のために時々家で暴れるのではないかと……。暴れる時は、大声を上げながら炊飯器を床に叩きつけたり、階段の手すりの支柱をへし折ったり、泣きわめきながら食器やフライパンなどを壁に投げつけたりしていました。あとで父に言うと、暴れたこと自体を覚えていないばかりか、『人に当たっていないんだからいいだろう』と平然と言われました」

フライパン
写真=iStock.com/ItsTania
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