「進次郎劇場」の死角とは
このまま進次郎氏が総裁選で圧勝し、自民党は10月解散総選挙で息を吹き返すのか。裏金事件は吹き飛んでしまうのか。
私は、イメージ先行の小泉劇場には「失言」以外にも死角がいくつかあると考えている。23年前の小泉劇場と比較しつつ、分析してみよう。
一つ目は、進次郎氏の裏金事件への対応である。とりわけ最大派閥として君臨してきた安倍派(清和会)との向き合い方だ。
父純一郎氏は清和会に属し、清和会をこよなく愛した。彼が総裁になる2001年まで、清和会は非主流派に甘んじてきた。田中角栄や竹下登ら実力者を輩出した最大派閥・経世会(現茂木派)とエリート集団の老舗派閥・宏池会(現岸田派)に隅に追いやられてきたのだ。自民党の派閥闘争史のなかで、純一郎氏もその盟友である森喜朗元首相も長らく辛酸をなめてきたのである。
純一郎氏が総裁選で「自民党をぶっ壊す」と絶叫したのは、「自民党を支配してきた経世会と宏池会をぶっ壊す」という意味だった。経世会や宏池会の政敵を「抵抗勢力」と名づけ、徹底的に干し上げた。
悲願である郵政民営化法案を国会に提出したものの「抵抗勢力」が造反して否決されると、造反組を自民党から除名して衆院解散を断行し、造反組を公認せず、さらには彼らの選挙区に対抗馬(刺客)を擁立して容赦無く叩きのめした。世論は冷徹な小泉劇場に熱狂し、小泉自民党は圧勝した。経世会と宏池会は確かにぶっ壊れ、清和会支配が確立したのである。
父が築いた清和会(安倍派)と決別できるのか
純一郎氏が2009年総選挙で引退し、小泉家4代目の進次郎氏が神奈川県横須賀市の地盤を受け継いで政界デビューしたが、父の言いつけで清和会には入らなかった。
引退後も清和会のドンとして君臨してきた父の盟友・森氏は進次郎氏を勧誘したが、耳を貸さず、頑なに無派閥を通してきた。逆に脱派閥を訴える地元・神奈川の菅義偉氏と行動をともにしてきたのである。
進次郎氏の「古い自民党と決別する」という宣言が大衆の支持を得るには、裏金事件で批判を浴びた最大派閥・清和会を「ぶっ壊す」ことが不可欠だ。父純一郎氏の政治手法にならうならば、首相就任直後の10月解散総選挙で安倍派の裏金議員を公認せず、対抗馬(刺客)を立てて落選させ、清和会を壊滅させなければならない。それでこそ世論は熱狂し、「自民党は変わった」と納得する。
進次郎氏と同じ40代の小林鷹之元経済安保担当相は真っ先に出馬表明して有力な対抗馬に浮上したが、裏金事件で処分された安倍派議員らの処遇見直しを唱えて失速した。国民人気トップの石破氏は安倍派の裏金議員を公認しない可能性に言及したものの、安倍派の猛反発を受けてトーンダウンした。ともに最大派閥・安倍派の数の力を無視しては総裁選に勝ちきれないと判断したのだろう。